第5話 河原の方舟

 蛇行して流れる川の、崖を削ろうとする深みのある流れの反対側、散歩道の胡桃の木を過ぎた後からは、コロゴロっとした石の河原が現れます。


 林間学校で川遊びをする、と言った場合に思い浮かべる、

 河原の石を積み上げたり、膝までズボンをめくって、川の中の生き物を探ってみたり、すっかり全身浸かって、川の深いところで泳いでみたり、そういう場所。


 この石の遊び場は、蛇行した川のほとりにあるので、雨で増水すると川に沈んでしまうのですが、一つだけ水面上に残る岩があります。

 その岩は、大きな岩の一部だけが上に飛び出たような、そんな広がりを周りの石の下へと見せるクリーム色の岩で、雨の日でも残るので、私はその岩を「方舟」と名付けています。


 よく晴れた日に、この方舟の上に座って、川を眺めるのは好きです。

 上流側のさざ波だった川面からは、涼やかな川風が川の辺であるこの岩の上を通り抜けていきます。


 世界が沈んで、この方舟に乗って行くとしたら、乗せられるのはせいぜい小動物一匹ぐらいでしょうか。

 私は子供頃から、動物の飼える部屋に住んだことがないので、動物と一緒に暮らしてみたいといつも思っています。


 河原を散歩していると、すれ違うのは散歩に連れられた犬ばかりですが、一匹だけ黒猫が歩いているのを見かけます。

 ウロウロしているのではなくて、いつも散歩道の脇の草むらを川沿いに歩いているので、ここらへんは彼の縄張りなのかもしれません。


 また、秋になると、広瀬川には鮭が上がってくるそうです。

 私はまだ見たことがないので、季節になったらこの川の方舟に座って、鮭が来るのを待ちたいですね。


 

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