#10 ナシ・ゴレン

 とりあえず、co'd lyjotが椅子ではないことは分かった。では、co'd lyjotとは何だろうか。全く見当もつかない。

 シャリヤはというと、翠から紙とペンを取り上げ、また何かを描いているようであった。多分、co'd lyjotを説明するために絵を描いているのだろう。

 少し経って、シャリヤは紙を翠に見せたがそれは絵ではなかった。


(これは……見たことがあるぞ)


 最初、シャリヤと会ったときに見た辞書らしき本に書いてあったこれと同じ文字らしきものは、頻度解析をしようとしたときに何度も見ていて音は分からなくとも字形まで覚えていた。それがco's lyjotと何か関係があるんだろうか。


fqa es mi'd lyjotこれは……です.”


 シャリヤは文字列を指してそういった。


(ん……? 待てよ)


 co'dがmi'dに入れ替わってるが、もし彼らの辞書に書いてあった文字を「私の文字」と言っているのであれば多分mi'dが「私の」で、lyjotが「文字」なのだろうということは推測できる。

 だが、翠の心の中には一つの懸念があった。

 インド先輩が勉強していたと何回も言っていたインドネシア語のように、英語や日本語と違って名詞の後ろに形容詞を置く言語もあるそうなのだ。

例えば、マレー料理として有名なナシゴレンはインドネシア語では“nasi goreng”と表せるが、nasiは「飯」で、gorengは「油で揚げた」の意味だ。日本語では「焼き飯」となり、英語では“fried rice”となるわけだが、いずれも前の単語が後ろの単語を修飾している。しかし、インドネシア語のように後ろの単語が前の単語を修飾しているかもしれない。

 つまり、lyjotが「私の」で、mi'dが「文字」かもしれない。ただ、前に出てきた“co'd”と入れ替わっているのは“mi'd”だから、その可能性は低いかもしれないが、一応確認しておこう。

 翠は目の前に提示された文字列を指差す。


fqa es lyjot?これは……ですか?

Ja,はい、 fqa es mi'd lyjot.これは私の文字です


 どうやら、後置修飾ではなかったようだ。あと、今の質問でlyjotが「文字」であることは確定的となった。

先程の質問でシャリヤに“fqa es co'd lyjot?”と訊いていたが、これは椅子を指して「これは文字ですか」と尋ねていたということになる。どうりで怪訝な顔をされて、否定されたわけだ。何も分からずこの世界に放り出されたとはいえ恥ずかしい。

 そういえば、mi'dが「私の」であれば、co'dは「あなたの」のはずだが、よく考えれば、「私」がmiで、「あなた」がcoだったよな……? つまり、単語に-'dを付ければ「~の」って意味になるのか……?


fqaこれは es lexerl'd pernal?レシェールの椅子ですか?


 シャリヤは思案顔になった。まあ、そりゃいきなり連れてこられて椅子が誰のかとか言われても多分分からないだろう。


Ja, fqa esはい、これは lexerlesse'd pernal.レシェール……の椅子です


 答えてもらえたが、レシェールと-'dの間に何かよく分からないものが挟まれている。なるほど、よく分からないが、肯定はしているようであった。

 そんなところで、翠は背伸びをした。今のやり取りで数十分ではあるがこんな感じで40日も続けていればそりゃあ完璧に話せるようになるだろう。しかも、それ以上に方法はないし、やることもないんだからなおさらである。

 集中力が切れて、空腹にやっと気づいた。そういえば最初の一日の中で、異世界に来てから何も食べていないのである。気づくとさらにひもじく思えてきた。さらにお腹がぐぅ……と鳴る。


“Ar, coあなた lidesnes. Mili mi plax.”


 何かに気づいたように、シャリヤは翠にそう告げて部屋から出ていった。ドアが開けたられたまま、部屋の中に翠は残された。

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