#9 貴方の文字は
“Mer...... ja,
(やったぜ!)
シャリヤは困惑しているようだが、言語習得に日常会話で通常使わないような例文が出てくることなんて普通だろう。“これはペンです”とか“これはプエルトリコヒメエメラルドハチドリです”とか日常で使うわけがないのだが、文法構造を理解するには必要なプロセスだと思う。
“mer”というのは今まで何回か出てきているが多分英語のwell......に当たるような表現なんだろうと推測した。あと、jaもどうやら今までの反応を見ていると肯定を表すらしい。ということは否定表現も聞き出せるはずだ。
翠は、椅子から立って椅子をガタガタを揺らしてみせた。
“
目的を理解したかのようにシャリヤは椅子を指さす。
“Niv, fgir
なるほど、距離的に相手側にあるものはfgirで指すらしい。英語の“
ここで翠はインド先輩から聞いた一つの逸話を思い出した。
1906年、東京帝国大学のとある学者がアイヌ語の調査のために北海道に渡った。
彼はとにかく「何」という一言を求めていた。それが分かれば物を指して、「何?」と訊くだけで名詞をどんどん習得していくことができるのだ。
彼はそこでアイヌの子供にわけの分からないぐちゃぐちゃを描いて見せた。すると、アイヌの子供たちは怪訝な顔をして、「へマンタ?」と訊いてきたのである。アイヌ語の「何」を指す単語へマンタを習得した彼は、滞在した40日の間、大抵の話はできるようになっていた上に大体のアイヌ語文法と多くの語彙、口頭伝承の調査ができるようになっていたのである。
というわけで、翠もそうするのが手っ取り早い方法だと思った。先人に倣えとはよく言ったものだ。翠は手を出して、シャリヤから紙とペンを貸してもらい紙にぐちゃぐちゃと殴り書きをした。アイヌ語学者と同じく、それをシャリヤに見せた。
“
どうやら、「何」という単語は「ソド リュヨット」という二単語で表されるようである。それでは早速これを使って、ものを訊いていこう。
翠は再度椅子から立って、椅子をガタガタさせて意識を向けさせた。
“
すると、シャリヤは怪訝そうな顔をした。
“
…………。
あれ?
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