第14話 卒業

片山さんが訓練校に来ない日が続き、「どうせズル休みだよ」といった野次が飛び交うようになり1ヶ月が経った。


「今日、皆さんにお知らせがあります。今日から、正式に片山さんが一足先に卒業する事になりました。」と、先生はみんなに発表した。


「卒業っていうか、リタイアですよね?こんなに休んでばっかりだったんだから、出席日数足りなくて当たり前ですよね。」と村田さんが声を荒げて先生に言うと「いや、リタイアとかそういうのではないです。片山さんは、正式に就職したんです。」と言った。


「えっ?本当に片山さんって就職活動していたんですか?」と私が目を丸くして言うと「はい、おそらく本当に就職活動をしていたんだと・・・いや、ちゃんと就職活動していたんです。そして、訓練校の本来の目的である『再就職』を叶えての卒業です。」と、先生は少しうろたえながら答えた。先生も、疑心暗鬼といった感じだった。


訓練校では、就職すると強制的に退校となる。しかし、片山さんに関しては就職云々の前に学校に来る気が最初から無かったように思う。


「真面目に勉強している人よりも、ああやってサボっている人の方が就職できるんですね」とぶっきらぼうに村田さんが答えると「い、いや決してサボっていた訳ではなくて就職活動していたんですよ」と先生は慌てて答えた。


正直、片山さんの文句をもうクラスで聞かなくなるので個人的にはせいせいしたといった所だろうか。元々片山さんとは一言も口を聞く事もなかったので、もう会えないと聞いてもちっとも寂しいとも思わなかった。


片山さんの行動を見ていると「今日は体調が悪いので」「ちょっとどうしても行かないといけない用事があって」等といった話をしては早退・遅刻・欠席を繰り返していた人といった印象しかないが、ああいう人でも就職って出来るんだと思った。いや、むしろああいった少しズルい人の方が就職って出来るものなのかもしれない。


片山さんが一足早く卒業した後も、私達の授業はずっと続いていった。卒業まで、あと2ヶ月。学校が始まってから1ヶ月間、「プログラミングの基礎」の授業の他にオフィスマナーの勉強や性格面の自己診断テストなど様々な事を行った。


あくまで、授業ではプログラミングの勉強だけがしたい村田さんは「またオフィスマナーの勉強ですか?そんなの、正直当たり前の事だし勉強なんてしたくないです」とイライラして怒っていた。


その度に先生は「いや、オフィスマナーが礼儀も就職には大切なので・・・。ここはあくまで職業訓練校ですから・・・。」と、渋々答え続けていた。

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