第13話 片山さん
「村田さん、そんなに怒らないで下さい。僕は事情を聞いていますので。」と先生が言っても村田さんは「いや、絶対に片山さんは嘘を先生に言っています。僕は、確信犯だと思います。」と言って耳を貸そうとしない。
紺野さんは「このままだと、先生やばいんじゃないですか?」と更に追い打ちをかけるように言うのにも関わらず、先生は「大丈夫です。片山さんは嘘を僕に言っていないと思います。」と、断固として村田さんの話も紺野さんの話も聞き入れようとしなかった。
正直、私からすれば片山さんの事などどうでも良い。そんな事より、早く授業を再開して欲しい。ただでさえ、授業第一回目からさっぱりチンプンカンプンだったにも関わらず、どんどん授業は進行していく。予習復習しようにも、何から始めれば良いかもわからないほどに内容が理解できなかった。
先生を呼んでは聞くのだが、先生に教えてもらっても全く授業内容の理解が出来ない。それもそのはず。元々理系とは無縁の文系コースでしか勉強してこなかったのに、いきなり2進数や10進数と言われてもさっぱりわからないのだ。
プログラミングの勉強は、まず2進数、10進数の勉強からスタートする。しかし、私はこの授業の時点ですっかり躓いてしまっていた。どれ位わからないかというと、先生が言っている言葉がほぼ全くといっていい程入らないのだ。
まるで今まで日本語が当たり前だったのに、突然見知らぬ国の言語を勉強するような気持ちになった。正直、1時間目が始まった瞬間に「なぜ私、ここに来てしまったのか」と思った。
あまり先生を引き留めすぎても、先生の授業も進まないし周りに迷惑をかけるので出来ないし、かといって家に帰って予習復習するにしても何からすれば良いのかわからない。迂闊だった。せめて、もっと自分が今までやってきた事に少しでも関係あるような授業にすれば良かった。
でも、本気でやる気がある人ならそんな言い訳もしないんだろうな・・・。きっと、自分なりに予習復習できる方法を研究したり、どうやったら理解できるのかを考える筈だ。だから、結局私はここで理解する事を諦める時点でそんなにこの世界に興味がないか、または自分に甘いかといった所なのだろう。
それにしても、授業以上に片山さんには本当に興味がない。なのに、みんな片山さんが休む事に対して執拗に責めるような気がするし、片山さんが休む事に対して怒れない先生にも否があるのではないかと責められているような勢いだった。
その度に、先生は「片山さんは、ずる休みなんてしていない」と庇っていたが、正直あれば片山さんを庇っているというよりも片山さんが休んでも怒れない自分を認めたくないから庇い続けているような気もした。
また、当初は先生も教える事に不慣れなのかパパッと授業を進めようとしてしまう傾向があった。その度に、生徒から「先生、まだわかりません」「そんな教え方じゃわからないです」と野次を飛ばされるようになっていた。
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