第6話 面接

訓練校の面接は集団面接だった。3人一組で行われ、私の左には30代前半の小さなくせ毛の男性、右にはややアトピー肌でかすれ声の年齢不詳(恐らく30~40代と思われる)の男性がいた。どちらの男性も、静かで大人しそうだったので正直面接はやりやすいかもと安心した。


私が就職活動を積極的に行っていた20歳の頃、集団面接が本当に大嫌いだった。集団面接も女性だらけの職場の争奪戦になると、美貌スティタスの高い女性ばかり依怙贔屓される事が多かった。その為、私が面接官に話しかけようとしても「ああ」と遮られ、また綺麗な女性に面接官は質問を繰り返す。特に窓口業務のような企業では多かった。


その為、集団面接を繰り返せば繰り返すほどにすっかり自信を失っていった。目は口ほどにものを言うというより、顔は口ほどにものを言うのではないかとさえ思った。正直、面接の為にプチ整形をする女性が後を絶たないのは社会のせいではないかと思った。


集団面接があると聞いた時、正直あの頃を思い出しては吐き気に襲われたほど気持ち悪かったのだが、思いのほか安心して面接を過ごせそうと思って安堵した。


やがて、面接官が訓練校について説明を始め出した。「ここは、あくまで訓練校です。学校には、最低でも8割来て頂きます。もし休校日が規定を越えてしまった場合は、強制的に退校になりますのでご了承下さい。また、休む日には必ず届け出を提出して下さい。


目標は、学校から就職する事が最終目標として頑張っていただきます。就職するという意志と、なるべく休まないように気をつけて下さい。では、左の方から学校を志望した動機を教えてください。」事務的に淡々と話す面接官の目が鋭利のようで、おもわず迫力にたじろいた。さっきまで試験問題で気力がすっかり抜けていたものの、面接官の言葉に緊張感が走った。


「あっ、あのっ・・・。僕は、山口って言います・・・。」

小さなくせ毛の男性は、下をずっと俯きながらボソボソと話をはじめた。面接だと言うのに、面接官の目をチラチラ見てはふいに下を向いてしまう。片手はお腹を抱えており、どうやら緊張で胃でも痛いのだろうかとこっちが心配した程だった。


「山口さんは、何故ここの学校を志望しようと思ったのですか?」


「あっ、あのっ・・・。以前の職場で体を壊してしまったのですが、またスキルを身に着けてもう一度就職したいと思ったんです・・・。」


「なるほど。では、最近までずっと何をされていたのですか?他の訓練校の講座など以前受けた事はありますか?」


「いっ、いや・・・はっ、はじめてです・・・・。」


山口さんのたどたどしい発言を、無表情で面接官はノートに書き綴っていた。あまりにも淡々としているので、この人には心が無いのだろうかと疑ったほどクールだった。


「何故、体を以前壊してしまったのですか?」


「はい、実は前職のストレスで体を壊してしまいまして・・・。病院にも通院しています。」


「へぇ。なるほど。では、学校には2割は休めないのですが病院にはどれ位の頻度で通われているのですか?」


「あっ、通院は1ヶ月に1回とかなんで大丈夫です・・・。」


山口さんの声はボソボソとはしているものの、ソフトで心地よい声だった。面接官に対して、とても謙虚な姿勢で対応しているのを見て自信こそ無さそうなものの「感じのよさそうな人だな」と思った。


面接に持病の話をするのは敬遠されるのではないかと思ったので、正直に持病の事を話す山口さんに対して嫌な気はしなかった。また、そんな山口さんに対してあくまで冷静なレスポンスを繰り返す面接官に恐怖を感じていた。


「へぇ、なるほど。では、次に佐藤さん。」私の目をみるなり、面接官は言った。

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