救世主は、鍛冶師だった

骸晶

第1話 この世界は、ピンチだった

 周辺の小さな村の商人達が集まり、彼らの交易の拠点として栄えた土地、セルクル。

やがてそこでは、商人の他にも、百姓や戦士も各自の食料や装備を売り買いし、小規模な村の集まりだとは考えられないほどに発展を遂げた。

その理由は幾つか考えられるが、最も大きかったのは人口の急減だと云われている。



 人類は、魔族の発生によって、生態系の頂点から引きずり下ろされる寸前にまで来ている。

魔族とは、その名の通り、魔法を行使することが可能である。人類も魔法を行使することが出来るが、魔族のその完成度は人類をおびやかす程である。そして何より、ヒト以外の哺乳類に勝る知能を持ち、ヒトに匹敵する、あるいはそれ以上の身体能力を持つ生物で、大体がヒトやサルに似た体の背中に鳥類の様な翼を持ち、表面が硬い鱗で覆われている。

魔族らはその高い魔法技術と身体能力で人類を絶滅の危機にさらしたが、今まで数千年もの間に渡って同じ種族なのにも関わらず対立し、戦争を繰り返して魔法と科学に磨きをかけたが団結したため、滅ぼすにまでは及ばなかった。

これが、セルクルや他の地方都市を急成長させた要因だ。

だかそれでも、人類はかなりの窮地に追いやられていて、領土は魔族発生以前の1割程度にまで、大幅に減少した。

いま人類が団結して領土を取り返せば、5割程度にまで回復出来るはずだが、その場合、常時戦闘を繰り広げなければならないため、実力が拮抗するであろう最前線ではどうしても消耗戦にもつれ込んでしまう。

人口が激減している上、魔族がどこから現れたのか、拠点は何処か、苦手としているモノ、弱点等、まだまだ勝機を掴めるような有力な情報が無い今、無駄な戦闘は避け、広大な大陸を捨て、島国に集結してその周囲に防衛網を展開したのである。

その後、魔族の発生から十数年たった現在においても、なかなか回復しない人口と、狭い土地の為に木材や金属など様々な資源の不足という2つの大きな問題に直面している。

資源においては、戦い慣れている戦士らが集団で国を出て放置されている土地ないし魔族領から採取、強奪し補充をしているが、それも少量で、結局どちらの問題も少し足掻いたところで何も解決出来ない。解決するのは時間か、それとも天才の出現か。そんなことは神のみぞ知る世界であって、国民は皆、魔族など知らないと言わんばかりに、魔族発生前と変わりなく平然と生活を送っている。ただ、1つだけ変わったことがあるとすれば、仕事への真剣さが少し増したくらいだ。



 そんな中、セルクルの中心部に一際目立つ店があった。




「いらっしゃーい!今日はどんな御用だい?」


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