White Night Fantasy

鷹司秋人

第1章 家

第1話






いつからこうしていたのか。

なぜここにいるのか。

こと、ここに至るまでの経緯を思い出すことはできないがただ一つ、ここに残ってしまえば私は死んでしまうということだけはわかっていた。


寒い、なんて言うものではない。

息が凍り、キラキラとした塊となって地面へ落ちる。耳が痛くなるほどの冷たい吹雪が全身へ打ち付けていた。

防寒具の類も身につけて居らず、この場にあっては失笑ものの装い…白い、袖のないワンピース状の服…いや、服というのも憚れる布を体に巻いているだけ。

見渡す限りの銀世界に暖をとれる場所などなく、きっとこのままでは周りに転がる同じ装いの人達と同じ末路を辿るだろう。


けれど、それでも構わなかった。

何も知らずに死んでいくことに理不尽を感じたが、かといって渇望する程生に執着もなかった。

当然だ、私には生きる理由がない。この状況を打開しようと動くには理由が足りない。

だって、私は何も知らないのだから。

むしろ生きようと踠き、苦しみながら死を待つことの方がよほど恐ろしいように思えた。


吹雪の音に紛れて、ギュッギュッという別の音が聞こえ始める。

その音はだんだんと大きくなり、なんとなく耳を傾けていた私の横ででピタリと止まった。


振り向けば、座り込んだ私には首が痛くなるほどの長身の男……いや、正確な性別はわからない。がっしりとした体格だと感じたが、それは防寒のために着込んだ装いのためかもしれない。

何せその人物には顔がなかった。顔だけではない、首から上がのだ。故に、判別が難しい。

吹雪の影響で見えないのか、寒さ故に幻覚でも見始めたのか。どちらにせよ、死期を悟らせるには十分だ。きっと、死んでしまう私にお迎えがきたのだろう。

どうせなら寒くない場所へ連れて行って欲しい。もう、耳が痛いのも吹雪が打ちつける場所も懲り懲りだ。

その思いで、徐ろにマントの人物へ手を伸ばす。


風に揺れている赤黒いマントは天使というより悪魔のそれのようだったが、大差はない。

ここではない場所に連れて行ってくれるのならとりあえずはそれで構わない。

伸ばした手にはすでに感覚がなかったが、握られた箇所が心なしか温かく感じた。




山無し、谷無し、落ち無し。駄目押しとばかりに、冗談だろう?と文句の一つもつけたくなるほどの短い一生だった。

次があるかはわからないが、次があるならもう少しマシな一生を送れることを願う。


他人事のように自分の終わりを考えながら目を伏せる。

こうして私の一生は終わった……その、はずだった。






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