お年玉 ~帰省~ 

前田渉

第1話 祖母の死

共働きの両親に育てられた僕の世話をしてくれたのは祖母だった。小さい時はよく遊んだくれた想い出がたくさん残っている。

両親と祖母と僕の四人家族だった。それと親戚からもらった犬が一匹いた。名前は太郎。雑種だったけど大型犬。兄弟がいなかったことあっていつも一緒にいた気がする。


中学から始めたバスケに熱中した。高校もバスケが強い高校に進んだ。関東大会までは進めたけど全国大会へは出れなかった。バスケは高校までと決めていたので高三の夏の大会で引退をして受験体制に突入した。


生まれ育った町が海の近くで子供の時からの友達も多くて居心地もよかった。兄弟もいなかったので、将来もこのままこの町で暮らすんだと思っていた。


部活のマネージャーとつき合って二年になる。同じ大学を受けて一緒に通おうって約束してた。結局、彼女は受かって僕は落ちた。ダメ元で受けた東北の国立の方が受かって独り暮らしが決まった。


親元を離れて暮らすのには不安はあった。でも暮らし始めたら意外に楽しかった。彼女とはスカイプで話したりメール交換がメインで少しずつ疎遠になっていった気がする。お互い別の相手も出来た訳じゃないけど、いつか別れが来るんじゃないかと考えてた。少なくとも僕はそう思ってた。後で分かったことがある。彼女は絶対に別れないと決めていたようだ。


夏休みは海の家でバイト。冬休みはスキー場でバイトで実家には殆ど帰らなかった。大学四年になって将来を考えるようになった。通っている大学の大学院に進むのか、就職するのか。就職なら実家から通える所にするのかとか色々と悩んだ。大学院なら都内の大学もある。就職は企業にするのか、地元の市役所を受けるかとか道は幾つもある。


この時期になってから彼女が僕の就職に口を挟むようになってきた。地元の市役所にしたらどうって口煩く言ってきた。


よく考えたら僕は実家にはあんまり戻らなかったけど彼女は実家に結構顔を出していたようだ。それに彼女はよく僕のアパートに来ていた。その時に後何年で家に戻れるねが口癖だった。僕は聞き流していたけど、口癖の意味がやった分かった気がした。


彼女は母と仲良くしているらしく僕がいないのに勝手に実家に泊まったりもしていた。そういうのが僕はなんとなく嫌だった。


就職は商社に決めていた。海外で活躍する仕事がしたかった。悩んで末に出した結果は、都内の大学院と地元の市役所と商社を受けることにした。


大学四年の冬休みもスキー場でバイトをする予定でいたけど母から連絡があった。祖母の体調が悪くて入院した。お正月には一度退院するから戻って来いという話しだった。その後に父からも連絡があった。退院はするけどそんなには長くはない。春まではもたないだろうってことだった。祖母の大好きな桜の時期までは生きられない。なんか悲しくなった。


大好きな祖母に死の現実に迫っている。凄いショックだった。実家にあんまり戻らなかったことを急に後悔したりもした。


冬休みに入る前に実家に戻って地元の友達と遊んだり彼女と毎日会ったり平凡な日々を過ごしていた。彼女は就職はどうするのばかりだった。家での夕食の食卓にも時間があれば一緒に食べに来ていた。祖母の退院の準備も手伝ったりもしてる。知らなかったけど祖母とも仲良くしていたらしい。特に父親は気に入っていてお嫁さんに来てもらえるみたいだから凄く嬉しいとか酔っぱらって言ったりもしていた。正直僕にはその気はなかった。あるとしてもかなり先って考えていたのが本当の気持ちだった。


祖母が退院した。大晦日にお蕎麦を食べてからおめでとうをした。この時も彼女はいた。お前は家は何処なんだと言ったら私の家はここだからとか言い返してきた。高校の時から家に来ていたこともあって家族のみんなが彼女には優しかった。とにかく可愛がっていた。女の子がいる家庭じゃなかったから尚更だと思う。


恒例の紅白歌合戦を観終わった後に祖母は寝る前にお年玉を渡すと言い出した。僕と彼女が呼ばれた。祖母は殆ど寝たきりの状態で彼女は祖母の世話もしてくれていた。寝たきりの祖母が差し出したポチ袋。僕と彼女にくれた。かなり前に流行った戦隊ヒーローもののポチ袋。物持ちがいい祖母らしさを感じた。これで丁度無くなったと笑っていた。彼女の前だけど涙が止まらなかった。寝たきりになってもお年玉を渡す祖母の気持ちにだ。


それから実家で普通に過ごしていた。祖母は病院に戻った。僕も授業が始まるので大学に戻ることにした。大学に戻ってから暫くして祖母の容体が急変したと聞いて新幹線に飛び乗った。駅からタクシーに乗って急いで病院に向かった。でも間に合わなかった。祖母の寝顔は安らかな表情をしてた。


お通夜や告別式が終わってから大学にまた戻った。そのままにしていたポチ袋を開けた。中にはお年玉には多いだろうって思う金額が入っていた。それと短い手紙。美咲ちゃん(彼女の名前)を大切にしなさい。ひろちゃん(名前は宏)には勿体ない子だよだった。僕は急いで携帯から彼女に連絡をした。何故かまた僕の家にいた。確認をしたら彼女の手紙にも大金と手紙が入っていたらしい。手紙にはひろちゃんをお願いしますと書かれていたらしい。


美咲は渡されたその場で中を確認したから頑張ります。大切にするから安心して下さいとか生意気なことを言ったらしい。そのことが僕には嬉しかった。次の日の朝に始発の新幹線に飛び乗った。地元の市役所の試験を受けるためだ。実家から通える仕事に就こうって決めた。握りしめた祖母からもらったお年玉は一生使わないようにしようって誓った。この時初めて美咲が大事な存在だと気づいた。


最寄りの駅まで迎えに来ると喜んでる美咲になんて声を掛けようって考えていた。でも、必ず言うことは決めていた。ありがとう。これからもよろしく。これだけは言わないといけないと思いながら改札の向こうで笑って手を振る美咲を見つけた。


~ 続く ~


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お年玉 ~帰省~  前田渉 @wataru1610

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