日常はここから
遡ること半日前。
自分の通う高校の教室で一人、入江康太は担任教師である峰崎茜音の補講を受けていた。
他の生徒たちは部活動に励んだり、学校帰りにカラオケやファミレスで駄弁ったりしてるのだろうと考えるだけで虚しい気持ちになる。
康太は別に頭が悪いだとかの理由で補講を受けているわけではなく、不幸な理不尽のせいで補講を受けなければならなくなってしまったのだ。
その理不尽な理由のせいで1ヶ月ほど学校を無断で休みこうして補講を受けている。
無理だとわかっていてもこの言葉を康太は言わずにはいられなかった。
「茜音先生、お願いです。もう勘弁してください」
「別に進級したくないなら帰っていいわよ」
担任教師である茜音は冷たく言い放った。
「あーあとこのプリント明日の朝8時までに出さないと単位無くなるって英語の有田先生がいってたぞ。それとこれは私の数学の分ね」
机に置かれた2つの束のプリントはどちらもおよそ40枚くらいの量があり、これの他にも、これと同等かそれ以上のプリントの束が他科目の担当の先生から提出するように言われていた。
「もう無理だ、終わった俺の高校生活......」
「大丈夫よ、今ここで数学の分終わらせちゃえば、明日提出するのは英語と日本史の課題だけでしょ?寝なきゃ大丈夫よ」
「寝ないの前提なんっスか。鬼スか」
マジ鬼だよこの人。
だから独身なんだよ。
心の中でボロクソに悪口を言う。
なぜ直接言わないか。
そんなこと分かりきってる。
物理的なダメージと追加のプリントをやらされるという精神的なダメージも加わって、明日から高校中退という烙印を押されて、生きていく自信が失われるからだ。
「あなたが魔術科なら補講に追われることもなかったのにねえ。あっちは実力主義だから基本的に実技試験しかないし」
「嫌味っスか?そんなもん行けたらとうの昔に入ってますって」
昔に比べて今の時代魔法は皆普通に、ごく日常的に使えるのだ。
ただどの程度使えるかというと話は別である。
魔法には火、水、土、風、雷の5つの属性がある。
そして使える属性というのは1人に一つと言うのがこの世界の理であるのだ。
才能がある魔術科に入るやつは大体中学生くらいで力の行使いい変えれば魔力の具現化が可能になるのだが、そのくらいの年で魔力を扱うことができなければ、基本的には才能がないという烙印を押されるのである。
もちろん高校へ入ってから能力を開花させるものもいるのだがそれもごく少数である。
そしてどの高校や大学などでも魔術科という科が存在する。
そのカリキュラムはほとんどが魔法の知識や実技に重点が置かれており、一人でも多くのものが
学年の半分以上はこの科に属しており、普通科は魔法を一般的に使うような現在においては落ちこぼれ組のような扱いを受けている。
そしてまた、その5属性以外の属性を使えるイレギュラーな存在もいる。
イレギュラーな属性は5属性とは別の属性という扱いになる。
そんな中康太はある意味ではイレギュラーであり、魔法の得意属性がない。というか苦手属性もないのだ。
つまり属性を持ってないのです。
笑ってしまうことに、属性を持ってなければ魔法として認められないというのがこの世界の常識の一つだ。
「そもそもお前さんが、先月丸ごと学校休んだのが原因でしょ」
「......まあそうなんスけどね」
茜音はポケットから飴を一個取り出しそれを食べながら言った。
「まあ何にせよ、とっとと終わらせてくれないと私も帰れないわけ。早く終わらせなさい」
「茜音ちゃんが半分やってくれたらすぐに終わるっスよ」
殴られた。
これが最近良く聞く体罰というやつか。
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