5.


 そうして本日何人目かの客は、何も食べずに三途の川の方へと進んでいった。

「えー。本当にこれでよかったの?」

 サエが渋い顔をする。

「あの調子で居座られたら困るでしょ?」

「それはどうだけど……」

 サエは壁に貼られた短冊に目をやった。

 真っ白のままの短冊が少し寂しそうに見えた。

「どんなものが食べられるか、楽しみだったんだけどなあ」

「どうせすぐに次のお客さんが来るんだから、そんなに落ち込まなくていいんじゃないの。……ほら、噂をすれば――」

 入り口の引き戸がガタッと鳴った。

 立て付けの悪いガラス戸に手間取っているようだった。

「はいはい、今開けますよー」

 客を迎えるためのとびっきりの笑顔で引き戸に手をかけたサエだったが、その隙間からのぞいた顔にぎょっとした。

 照れくさそうに笑う加須美がそこに立っていたのだ。


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