7.
***
調理台に並んだ材料を見て、恵は驚いたような顔を見せた。
作り方は知っているはずだ。
それなのに、彼女は材料の一つ一つを確認して思わず唸る。
「豚肉、玉葱、トマト水煮缶。塩、コショウ、砂糖と、小麦粉。それからローリエ、サラダ油。うん。やっぱりシンプルね」
「と言うと?」
材料と睨めっこをしながらぶつぶつ呟く恵とカウンターを挟んで向き合って、サエも今一度材料を確認する。確かに作業台の上はなんとなく寂しくもある。
「これは母のレシピ通り。でも私が家で作るときは少し違うの」
最初はレシピに忠実に作っていたが、いつの間にか材料が増えたのだという。
「私のは、これにニンニクとコンソメが加わるの。他に香味野菜を加える日もある。まあ、二十年も作ってたら、自分流にもなるわよね」
「そっちの方が好みなら、入れたバージョンのも作れるよ?」
サエが尋ねると恵はただちに首を横に振った。
「あなたがこれを選んだってことは、きっと、こっちである必要性があるんでしょ? ぜひ母のレシピで作ってちょうだい」
店に足を踏み入れたときとは別人のように穏やかな顔つきで、恵は「よろしくね」と微笑みかけた。
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