17.

 そうして崕は旅立っていった。

 途中、一度だけ振り返り大きく手を振った。そのあとは前だけを向いて、彼女のもとへと駆け出した。

 その後ろ姿が川面の靄に隠れてしまうまで、サエは彼の旅立ちを見送った。

「会いたいから会いに行く。うん。いいね」

 サエは満足そうにひとり笑う。

「やりたいからやる」

 そう言って、店の前に転がる小石をひとつ拾い上げた。

 他の石の上に重ねてみると、ぐらぐらと揺れた。落ち着く前にもうひとつ石を拾い積み上げる。

「私は……」

 ひとつふたつと石を積み、崩れ落ちたところで後ろを振り返った。

 無地の暖簾と、立て付けの悪いガラス戸と、

「サエちゃん、コーヒー飲みたいなー」

 意地悪で無遠慮な常連客がサエを待っている。

「もう、しょうがないなあ」

 サエは立ち上がり「よし!」と気合いを入れると、満面の笑みを見せた。


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