11.

 塩味のインスタントラーメン。

 一口分の量。

 波音を聞きながら、はぜる薪の音を聞きながら、子どもたちが遠慮気味に小声で話すのを聞き続けながら。

 胃袋的にはちょっと物足りない気もするけど、満足感に包まれる時間。

 未練なんてない。

 最後にこんな心地よい景色を味わえるなんて、なんて幸せな最後なんだと樽前は思った。

 そう思って笑顔を見せたはずなのだが、胸の奥に何かが引っかかっている。

 樽前はその『何か』に気づかないフリをして、紙コップのラーメンをかき込んだ。

 大急ぎで食べ終え思い出の景色から抜けだすと、慌ただしく二人に礼を伝え食堂を去ろうとする。

 未練なんてないのだ。そう自分に言い聞かせ、三途の川を目指そうとガラス戸に手をかけた。

しかし彼の思惑通りにはいかなかった。店にたどり着いた時と同じようにガラス戸の建て付けの悪さに手間取ってしまったのだ。

そのわずかな足止めの間に、彼はふたたび幻影の中へと引き戻されることになった。

 胸騒ぎがした。

 望まぬ『何か』を見せつけられるような気がして、樽前はぎゅっと目を閉じた。

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