第26話 唐獅子牡丹組 参上!

 アキは絵里奈と真由に両側から抑え込まれた。


「やめてください!」

「嫌がってるじゃないの? よしなよ」


 聖を先頭に、伽藍たち5人が現れた。アキは怯んだ奈緒の手を振り解いてその場を去って行った。


「まあ、お揃いで。唐沢聖、獅戸伽藍、子之神かごめ、牡渡無蒼空、丹下つづら…苗字の頭を取って “ 唐獅子牡丹組 ”って呼ばれていい気になってるグループらしいわね」

「あら、そうなの? ちっとも知らなかったわ。こっちは、あなたのことは聞いてるわよ。曽我琉生…県会議員のお父様には絶対服従。そのストレスを他人に八つ当たりして解消。最近流行ってる家庭内モラハラよね。そして取り巻きのあんたたちに共通して言えることはネグレクトの犠牲者。家庭内で孤立した可哀そうな女子高生。皆さん、随分精神的に傷付いて弱ってるのよね」

「それだけの口を叩くんだったら覚悟は出来てるんでしょうね」

「何の覚悟かしら? 暴力でケリを付けるの? それは困ったわ。怪我の診断証明書添付で警察に被害届を提出しても、県会議員のお父親の職権で揉み消しにされちゃうものね。でも、最近はそんな程度ではダメよ。ユーチューブに流しちゃうから」

「転校生、曽我巌県会議員のお嬢様が大暴れ! 用意、スタート!」


 蒼空がスマホで撮影していたのに気付いた琉生が態度を変えた。


「みんな、仲良くしましょうよ! 私たち、今日は塾があるからもう帰らないと」

「何の塾かしら?」


 帰ろうとした琉生が、きつい表情で振り返った。


「怖い~っ…とでもリアクションすればいいのかしら? そのツラ、停学喰らってた学校では通用してたかもしれないけど、ここでそんなツラ見せたら顔パンパンになっちゃうかもよ。この学校は生意気なやつらが次々に死んでいく呪われた楽しい学校なの。知ってるでしょ?」

「私たちに喧嘩を売る気? ただの意気がりなら、よしな。学校の外が危険になるわよ」

「だから、この学校の場合、中のほうが外より危険だって言ってるでしょ? 話聞いてた? バカなの?」


 伽藍の挑発に乗って出て来た奈穂とありさを、琉生が制した。


「じゃあ、あんたらは中も外も危険ってことね。お気の毒に」

「誰がお気の毒なのかしらね。出来の悪い子を持つと、親は苦労するって言うけど、あなたたちの親が気の毒に思えて来たわ」

「私たちの親は関係ないでしょ」

「親の話はお嫌いのようね。あなたたちは親と同じ家に居ながらにして、親に捨てられた状態だものね」

「どういう意味!」

「出来が悪過ぎて手に負えなくなったあなたたちは、親に捨てられたのよ。その結果、親は子供に関する悩みから解放されたってわけ」

「勝手に私たちへの妄想や偏見は迷惑だわ。私たちは親から、学費もお小遣いも食事も全て不自由なく提供してもらってるからどうぞご心配なく」

「まだ気付かない? あなたたちは前の高校で何で停学喰らったと思ってんの? あなたたちが暴走する理由はどこにあると思ってんの? 親の愛情に飢えまくってるからじゃないの?」

「別に親の愛情どうでもいいし」

「寂しい言葉ね」

「おまえ、いちいち胸糞悪いんだよ!」

「それは私の言ってる事が、あなたにとって図星だからよ」

「うっせえ!」

「親との会話が目に見えるようだわ。何のことは無い。親は出来の悪い子を捨てれば、苦労はなくなるってことよね。あんたのような子どもだったら、捨てる親の気持ちがよく分かるわ」

「私たちは出来が悪いって言うのね? じゃ、勝負しましょうよ。一番強いのは誰? 出て来なさい」

「勝負って喧嘩で?」

「そうよ。お子ちゃまたちはおままごとで勝負するつもりだった?」

「おままごともいいわね。でも、あんたら料理出来ないでしょ、ネグレクト生活が長いからね。親にかまってもらえないガキは、家事一切出来ないそうだけど? 魚捌ける? お米、研げる? パスタ、茹でられる? 箸、ちゃんと持てる? 部屋、ひとりで片付けられる? 親に八つ当たりする以外に何かしてあげたことある?」

「ごちゃごちゃ煩えんだよ! あたしと勝負するやつ、出て来いよ」


 井上ありさが前に出て瀬戸伽藍を挑発した。


「え !? 私ですか? …じゃ、お手柔らかにお願いしまーす!」


 いきなり井上の蹴りが飛んで来た。伽藍は軽くいなして彼女の軸足を弾くと、背中から落ちて後頭部を強打して動けなくなった。


「あれ? 試合中に寝るの?」


 女池奈穂が飛び蹴りをかまして来た。それをかわした伽藍の腕が思い切り女池の首に引っ掛かり、一回転して落ちた。


「だから、急にやるのはダメでしょ? こっちも咄嗟のことだから手加減出来ないでしょ。今の苦しかったでしょ? 大丈夫?」


 丹下つづらが、息の出来なくなっている女池の上半身を起こし、背筋にドンと圧を加えると、女池は息を吹き返した。

 その場から不機嫌に立ち去ろうとする琉生の背中に聖が言葉を投げた。


「いつまでも出来の悪いままでいたら、苦労するのは親じゃなく、あんたら自身だってことに早く気付くことね」

「よくもまあ、分かったふうな口叩くガキどもだわね」

「そう、出来の悪い子には、ちゃんと言って聞かせないと分からないからね…とは言っても、分からないから出来が悪いんだろうけど?」

「あんたら、外出したら気を付けなよ」


 かごめが初めて口を開いた。


「お互いにね」


 琉生はかごめを見て、その殺気にゾッとした。


〈第27話「首無しワラ人形」につづく〉

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