第24話 七人の転校生
夏休み明けから鷹羽岱高校の授業が再開していた。暫く平穏だった学校に、7人の転校生がやって来た。夏休み中に「転校」で流出した生徒は20人以上になったが、県議の曽我巌がその補填を名目に自分の娘を鷹羽岱高校に転校させるという記事が地元紙を飾った。記事は、自身の息子・圭吾が在学中に溺死をした高校にも拘らず、「転校」流出を食い止めるために、勇気ある決断をした曽我父娘の美談として掲載された。
曽我巌が愛人・片山妃那子に産ませた娘だ。片山
「曽我はこの秋の県議再選に動き出したな」
朝刊を開いている竜はその記事に目を止めていた。
「曽我の娘…気の毒だな。親の票稼ぎの道具だ」
「あの子、うちのクラスになったよ。やばい空気持ってる」
「…そうか」
「お父さん、どうせあの子のこと調べたんでしょ」
かごめの言うとおり、既に竜は曽我の娘・琉生の素性は調査済みだった。琉生は隣県の全寮制の高校に通っていたが、素行が悪く、学校側からは自主退学を打診されれていた。同時につるんでいる6人の仲間…井上亜理紗、
「もう、始まってる。勝手にカースト作ってるよ」
「面白くなって来たな、かごめ…準備は出来てるか?」
「ええ」
竜とかごめはニッコリと目を合わせた。
曽我琉生は転校初日、既に徳永アキに目を付けた。放課後の下校途中の道でアキは後ろから来た琉生に声を掛けられた。
「あなた、担任の先生に信頼されてたんですってね」
「・・・!」
「その担任の先生も娘殺しで逮捕されちゃって…ショックよね」
「・・・・・」
「これからは私たちにいろいろと便宜を図ってもらえないかしら?」
「便宜?」
「そう、便宜よ」
いつの間にか並んで歩いていた井上亜理紗が会話に入って来た。そしてゾロゾロと小百合、奈穂、真帆、絵里奈、真由らに囲まれて歩く形になった。
「・・・!」
「便宜を図ってもらえる?」
「…はい」
「ああ良かった! じゃ、明日からまた宜しくね!」
琉生を先頭に亜理紗たちは、風を切りながら大勢の下校生たちの間を去って行った。教室の窓からその様子を見下ろしていた蒼空が、ニヤつきながら呟いた。
「どうする、かごめ?」
「どうするって…蒼空には見えたんでしょ」
「うん、放っといても明日面白いことが起こる」
下校生に道を開けさせて去る琉生らを、聖、伽藍、つづらも憎々しく見下ろしていた。
翌日、教室に琉生の姿がなかった。かごめたちは琉生の空席を見て、お互いの顔を見合わせた。
校舎から離れた資材倉庫に琉生はいた。美術教材や実験用器材などが施錠で保管されている倉庫だ。鍵職人の父親の影響で、真由はピッキングはお手の物だった。
薄暗い床には成績が学年トップの君原慶子が瀕死の暴行を受けて倒れていた。
「顔、でかくなったんじゃね?」
「消毒してやれよ」
小百合は自分の下着を取って慶子に跨った。
「発射します」
慶子の顔面に勢いよく小便が注がれた。周囲の連中は黄色い声で燥ぎながら、小百合の弾けた飛沫を避けて離れた。
突然、慶子が暴れ出した。傍にある椅子を亜理紗らに向かって思い切り投げた。その椅子がガラス戸を破り、弾け飛んだ薬品瓶のひとつが小百合にあたり、蓋が外れて中の液体が散った。小百合が絶叫した。下着を取った小百合の股間に液体が散っていた。股間を押さえて七転八倒する小百合を横目に、慶子はその場を脱出した。間もなく琉生らも激しく咳き込みながら倉庫から出て来た。
倉庫の中には股間に大火傷を負った小百合が一人、痛みで痙攣しながら残っていた。
「…てめえら置き去りかよ」
琉生たちは、何事もなかったようにそれぞれの教室で授業を受けていた。昼休みになり、倉庫に美術資材を取りに行った教師の橘陽一郎が、扉から這い出して倒れている小百合を発見した。
「・・・!」
琉生は校門を出る救急車を見下ろしていた。校舎を離れた救急車がサイレンを鳴らし、遠ざかって行った。
「今夜のうちに、お見舞いに行ってやれ」
絵里奈は早退して小百合の運び込まれた病院を確認した。そして深夜、絵里奈は真由と一緒に小百合の病室に侵入し、そっと様子を窺った。良く眠っているのを確認し、その顔にラップを巻いた。小百合は激しい痙攣を起こし、静かになった。
「お大事にね、小百合」
絵里奈はラップを外した。その途端、小百合は目を剥いて息を吹き返した。慌てた絵里奈が再びラップで小百合の口を覆ったが、物凄い力で押し退けられた。
「てめえら、何すんだよ!」
駆け付けた夜勤の看護師を撥ね退け、絵里奈と真由は逃走した。
「小百合ちゃん、大丈夫 !? 怪我は !?」
「…大丈夫」
「あの人たちは知ってる人?」
「…いいえ…知らないわ」
小百合の無事を確認した看護師はその場に倒れた。脇腹にナイフが刺さっていた。
次の診察の時、既に小百合は病室から姿を消していた。
〈第25話「血判状」につづく〉
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