第16話 真昼の花火
藤村組の怖いお兄さん・桐島弘道が曽我宗人を呼び出していた。
「圭吾に何をした」
「自分は何もしてません」
「通用しねえぞ、父親が県会議員だからっていい気になるな」
「ほんとに自分は…」
「もう一度聞く…圭吾に、何をした」
桐島の睨みがきつくなった。
「ただ…その…生意気な女生徒に焼き入れるように…」
桐島の舎弟の吉川辰也が、宗人の髪を毟り上げた。
「圭吾を顎で使ってたのかよ、てめえ」
「いえ、頼んだんです! …頼みました」
「指図したのは、おまえなんだな?」
「ち、違います! 僕は気が進まなかったんですが、犬飼が…」
「犬飼? そいつは誰なんだ?」
「同級生です…野球部も一緒の」
「その犬飼ってやつが指図したんだな」
「…はい」
「で?」
「それが…」
「・・・・・」
「彼女は無傷で登校して来たので…やらなかったのかも」
「連中に確かめなかったのか?」
「三人ともその日から欠席したままだったので…ラインにも返事がないし…」
桐島は少し考えた。
「焼きを入れた女生徒の名前は?」
「…子之神かごめ」
「家は?」
「鬼ノ子実験村のマンションだとか聞いてます」
「その犬飼ってやつに電話しろ」
鬼ノ子実験村の朝は早い。今日は5の付く日で、中央の広場には様々な業社が入って屋台が広げられる。
先陣を切って入って来た八百屋の表情が凍り付いた。広場に死体が転がっている。曽我宗人の死体の前で、犬飼仁司が呆然と佇んでいた。
「な、何やってんだ、おまえ!」
八百屋が叫ぶと、犬飼は慌てて逃げ去った。
妖子がコーヒーを入れて書斎に入ると、竜は電話を受けていた。
「そうですか、ではこれから受け取りに参ります」
「出掛けるの?」
「ああ…かごめが藤村組さんに拉致されたみたい」
「…そう…じゃ、特別の礼服に着替えないとね」
着替えを済ませた竜は、広場の騒ぎを横目に車で出掛けた。妖子はその様子を電話片手にベランダで見送った。
「場所分かるわよね、雷斗」
藤村組に到着した竜は怖いお兄さんに案内されて屋敷の中に入った。
「バッグは預かる」
「あ、そう」
竜は素直に組員にバッグを渡して、組長の待つ部屋に入った。
「おまえが子之神竜か」
「おまえが藤村信雄か」
「おらーっ、親分に向かって何だてめえ!」
竜はいかついお兄さんに微笑んだ。
「うちの娘に手こずったからって、私に八つ当たりしないでくださいよ。逃げも隠れもしません。私はここでリンチを受ければいいんですよね。でも、ちょっと待ってください。この上着、高価なもので脱がしてもらいますね」
竜が上着を脱ぐと、組員たちは後退った。竜の体には爆弾が巻かれていた。
「今日は寒かったんで、ちょっと厚着して来ました」
「どうせハッタリだ」
「じゃ、試してみますね…えーと、どっちのボタンだったかなあ。さっき社員の方に渡したバッグにも爆弾が入ってるんですけど、どっちがどっちか分からなくなってしまいました。取り敢えず、どっちか押してみますね」
竜がボタンの一つを押すと、隣の部屋で爆発音が轟いた。部屋に衝撃が走り、境の壁が破損した。
「あー、すみません。思ったより強力でしたね。こっちのほうがもっと強力なんです。だって私は気が小さいもんで一瞬で逝きたいんですよ。申し訳ありません。じゃ、皆さんもご一緒に」
「待て! …娘を連れて帰れ」
「いいんですか? じゃ、かごめ、帰ろうか」
竜は体に巻いた爆弾をその場に脱ぎ捨てた。
「そんなものを置いて行くな」
「保険ですよ。無事にここを出るまでのね」
竜はかごめを連れて藤村組を出た。
「組長!」
「爆弾を持ってこの部屋から出れるやつはいるか?」
「自分が持って出ます」
桐島が爆弾を持とうとすると、舎弟分の吉川が叫んだ。
「兄ぃ、ここは自分に譲ってくれ!」
「おまえは引っ込んでろ!」
「兄ぃは組長の傍におるべき人だ。自分に…」
「出しゃばるんじゃねえ!」
二人は掴み合いになった。
組事務所を飛び出した竜とかごめは車に乗った。
「発車しないの、お父さん?」
「ちょっとだけ待て」
雷斗が走って来た。
「オッケーだよ」
「よし、乗って!」
竜の車が発進した。雷斗がスマホでナンバーを押すと、藤村組事務所の建物の土台まわりが次々と爆破を起こしていった。
「いい仕事するじゃないか、雷斗」
「理科の実験と同じだよ」
「じゃ、こっちはとどめを」
竜がリモコンのボタンを押すと建物内から大爆破が起こった。
「藤村屋~っ! 夜だったら綺麗だったのに…では帰宅する」
「ボク、学校に戻るよ」
「なんで?」
「駅に忘れ物取りに行くって出て来たんだ」
「そうか、じゃ戻るしかないか」
竜は雷斗を鷹巣駅で降ろし、家路に就いた。
〈第17話「職員会議」につづく〉
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