第98話 兎

「それでは、本日のメインイベント。新入生による対戦です。」

 アナウンスを聞くと、凄いドキドキしてきた。


「時代の寵児なのか? 我が校の新入生!」

 残っていた一人が立ち上がり、黒いローブをスルリと落とす。

 そこには、先程と同じく大きなウサギのヌイグルミを抱いた姿…。普通だ…。


 それを見た部長さんが『ガラッ』と椅子を後ろに跳ねながら立ち上がり、

「ま、まさか…あの娘は…。」

 驚いた様子…。

「何ですか、あの娘?」

 美星先輩が聞く。私も気になる。

「先程の行動…。衣装は抱いた大きなヌイグルミだけ…。考えられるのは…。」

 部長さんが確信している。

「あの娘は『不思議ちゃん』!」

 私と美星先輩は、ちょっとだけ『カクッ』ってなった。

「『不思議ちゃん』って、あのよくある設定の奴ですよね?」

「そうです。考えておくべきでした…。『ツンデレ』が現れたなら、当然現れるはずですから…。あいつ、隠していたんだ。」

 『キッ』とエロ部長さんを睨んだ部長さん。

「はぁ…。」

 ため息混じりの返事で返す美星先輩。

「今日の日向さんの『女子高校生勇者』の設定では、勝てない…。」

 『ドスン』と椅子に腰を下ろす部長さん。

 設定に勝ち負けってあるんだと、始めて知ったよ。


 エロ部長さんを見ると勝ち誇った顔してた。やっぱり、同じ種族だ。


「(もごもご。)」

 何か言ったみたいだけど、前と同じで聞こえない。


「えっと、この解説文によりますと『兎野幸(うの さち)。一年生です。』だそうです。」

 大型モニターに合成されたのは、いっぱいの白ウサギだった。


「対するは。」


 私は立ち上がりローブを落とした。

「日向葵。一年生です。」


 「やっぱり、転生者と言えば勇者よね。」

 「ストレート勝負か…。解りやすいは、強味になるよね。」

 「勇者VS不思議ちゃんか…。設定では、不思議ちゃんの勝ちかな?」

 「なんで、不思議ちゃんなの?」

 「ほら、不思議ちゃんは衣装じゃ雰囲気出ないでしょ。」

 「確かに、より難しい設定を選ぶ事でポイントに差をつけたって事ね。」

 女子生徒の会話が聞こえていた。


 でも、誰がポイント計算してるんだろう…。


 気になっていたので、ちらっと大型モニターに目をやる。

 合成されていたのは、昔のRPGゲーム風のマップ。確か、ドット絵って言うんだよね。


 「凄い。このCG時代にわざわざドット絵なんて…。」

 「考えた人、分かってますね。」

 驚きの高評価!


 私は見た…。美星先輩の鼻が三センチ程伸びているのを。


「部長さん。」

「何かしら?」

と、振り向いた。

「これ、外しても良いですよね…。」

 迷わず、

「どうぞ。」

 勇者の装備を外し、椅子の上に置いた。だってコックピット入ったら動き難いのは確実だもん。


 身軽になり、コックピットに近付く。と、『不思議ちゃん』はヌイグルミを抱えたままコックピットへ入っだ。

 えっ、あれ邪魔にならないの!? 気になるけど、私が気にしてもだし…。忘れよう。


 さてさて、このコックピットはどんな感じかな?

 椅子…シートの方がかっこいいな。座ると、左横に点滅しているスイッチがある。

「これだよね。」

 押すと『ガァー』って、後ろからカバーが閉まり、真っ暗になる。


 今度は右横に点滅するスイッチ。

「ポチッと」

 押すと、コックピット内に光が灯るんだけど、パネルに並んでいるスイッチ類は、一つずつ順番に光っていく。

「このコックピット作った人解ってる…。」

 ちょっと『ブルッ』てなったよ。


 次第にコックピット内の光量が増え明るくなっる。

「やばっ。このコックピットかっこいい。」

 思わず声が漏れ、見惚れてた。


「あっ、シート。シート。」

 シートの横に手を入れる。左側にそれはあった。

「ゲームセンターのと同じか。」

 十字キーでシートを合わせる。

 読み取り機にタブレットを乗せ、セットアップ完了。


 右の赤トリガーを引き、機体選択へ移行する。

「この前、部長さんと戦った装備が一番良いはず。」


 あっ、ちなみにサスペンションのセッティングは、決まらなかったから初期にした。

 確かに硬い方が良いんだけど、私の操縦がまだ雑だから…。他の人に言わせると『無駄な力』が入っているとかで、妙なところで跳ねる感じになるのよ。

 なので、今回は初期設定にした。



 機体と武装を決定すると、次はマップ選択になった。

 いつも通りに、表示されているマップが切り替わる。で、決定されたのが


 【廃墟】


 崩れかけのビルとか、壁だけとか、瓦礫(がれき)とかいっぱい障害物があるマップ。

 今回は読み落とさなかったよ。このマップってレーダー効かないって書いてあった。桃河さんと戦った経験が役に立った。


 決定されたマップを見て、

「これは、まずいわね。」

 エロ部長さんは、インカムのスイッチを入れた。


「えっとですね。」

 アナウンスが入る。

「マップについてですが、うちの部長から物言いが付きました。」

 私の目の前のモニターに映るエロ部長さん。当然、大型モニターにも映る。

「このマップだと、うちの幸(さち)が有利過ぎるので、もう一回マップ選択を要求します。」


「あの、どうしますか?」

 進行の女子生徒。今度は、うちの部長さんに切り替わり、

「そう言ってますが、どうしますか日向さん。」

 その口元は、私の答えを知っているかの様に笑っている。

「なるほど…。相手が有利過ぎるマップですか。」

「みたいですよ。」

「では、このままで。」

「了解です。」


 部長は、

「と、言うことです。」

 そうを聞いたエロ部長さんは、

「なるほど。不利を楽しむ…。流石、転生者だね。」

 同じく口元が笑う。後で聞いた話しだと、相当エロかったらしい。流石、エロ部長さん。


「このまま、始めてください。」

 部長が進行役に告げた。

「分かりました。では、このまま進めます。」


 マップ選択で止まっていたモニターが、開始のカウントダウンを始めると、対戦相手の機体が表示された。


 シキクラエレクトロニクス社の【楽美兎(らびっと)】シリーズ。名前の通りに、頭は丸っこくて長い耳が垂れてる。 

 全体をみると、機体全部が丸いデザインだった。ちょっと可愛いぞ。

 『戦闘用機械に、可愛さを求めるのは間違っているだろうか?』と言うフレーズが浮かんだ。自分で『どこの、ラノベのタイトルだ!』と、突っ込んでおいたから許して。

 可愛い割に、サイズは少し大柄(おおがら)な感じ。まるで、兎の戦車みたいだ。

 シールドは無しで、両手で持っているのはガトリング砲。しかも、二連装の奴。

 両肩口に見えるのはミサイルみたいだけど、向きが上だ。確か、遠距離用だったはずだけど…。後は、大っきい斧が腰に見える。後、何があるかはお楽しみだ。


「あの機体って…。」

と、部長。

「【楽美兎(らびっと)】の事ですか?」

 答える美星。

「そうです。あの【楽美兎(らびっと)】ですが、頭に長い耳ありました?」

「私の記憶では無かったと思いますが、アクセサリーじゃないですか?」

「ん? なんだ?」

 タブレットと格闘していた八束が手を止め会話に割り込む。

「あの長い耳ですよ。アクセサリーですかね?」

 美星が答えると、

「あれは、アクセサリーじゃないぞ。」

「では、なんですか?」

 部長が八束の方を向き聞く。

「あれは…。」


 その時『わぁぁぁぁぁ!』という歓声で体育館が満たされ、八束の声を遮っる。と言う、何ともお約束な事が起きたのは当然だよね。


 [ベタの神様]再登場。

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