第95話 鷲

「副部長を抜けて来るなんてやるじゃん。」

 赤色機体に狙いを付ける。

「そ…。」

 トリガーを引く寸前で、赤色機体は桜の樹の陰に入る。

「流石。上手く誘ってるな。」


「引っかからない、狙撃者か…。」

 呟く鷲雄赤音。

「ならば!」

 樹の陰から飛び出し、狙撃者の方へ駆ける。


「そう来るか…。それなら…。」

 狙う!

 そして、マークしたまま維持。獲物を狙う狩人の目…じゃない…。あの目は、ゴールを狙うバスケボール選手の目。(背景にバスケボールのコートが映ってます!)


 狙われているのは、ひしひしと伝わって来る。が、撃たれない。

「撃たないで、プレシャーかけてくるなんて…。」


「ふう。」

 小南は、肩の力を抜き自分なりのルーティンを行う。


 不意に、狙われている感覚が消えた。自分ではなく、向こうの機体を狙ったのだと、

「鮫島、豹頭。そっちに…。」

 意識が反れた。

「はっ !」


 放たれた銃弾。(背景に3ポイントシュートを撃つ小南が映る。)


 『ズキューーーン』の音と共に[ALERT]の文字が出た。咄嗟の判断で機体を捻り直撃は避けたが、軽量級の性(さが)ダメージは大きい。

「やるねぇ。」


「仕留められなかったか…。」

 次弾を装填しつつ、

「今のは、もう使えない…。」

 考えが声に出ていた。


 ダメージを受けつつも一気に距離詰めたのは、軽量級の成せる技。

「見えた!」

 樹から樹へと陰に駆けり、更に距離を詰める。


「まだ練習足りないから、やりたく無いんだけど…。でも、負けるのは嫌だし…。それに、日向ん見てるし…。」

 少し迷い、

「日向んに対応されるなら、それを超える。それが、先輩だな!」

 決意の声。

 ゴーグルの前側を上に開け、狙撃モードから通常モードへ変更した。そして、操縦桿を倒し一気にペダルを踏み込む! 『ギュルルル』と空転からグリップし、機体を推し出した。


「突っ込んで来る狙撃機体!?」

 鷲雄赤音は今まで対戦した事の無いタイプだと。

「接近戦も得意と言う事か! だが接近戦なら、こちらの方が有利!」


 二機の距離は近距離まで近付き、下手をすると白兵距離になろうかとしていた。


 赤色機体の構えるハンドマシンガン二刀流が小南の機体を襲う。

「私、回避得意じゃないんだよね。」

 愚痴りながらも回避行動。が、[ALERT]が出るのは回避しきれないから。

「そこ!」

 不得手な回避行動からの近距離でのスナイパーライフル。


 そう、小南が練習していたのは、回避と近距離スナイパーライフル。


 『ズキューーーン』と銃弾が機体をかすめる。

「うは…。まさかの近距離スナイパーライフルか。」

 武器を持ち替えるとばかり思っていた鷲雄赤音は驚いていた。

「それ連射できないね!」

 ハンドマシンガンで返す。銃弾が描くのは二匹の畝(うね)る蛇。


「まだまだ、練習が足りないな…。」

 回避しながら次弾を装填し、狙いを付ける。


 『ズキューーーン』と次に放たれた銃弾は、先程よりも近く機体をかすめる。

「狙いが正確になってきているって事か…。」

 少し考え、

「ならば!」

 両手のハンドマシンガンを腰の背中側に収納した。そして、左右の腰にある中剣を抜く。

 中剣の鍔(つば)の部分が鷲が羽ばたくデザインの武器アクセサリーになっていたのだが、誰も気が付かない。


 *中剣は、一般的にショートソードと呼ばれるサイズです。ショートソードを訳すと短剣になるので、私のイメージに合わせる為の言葉です。


「接近戦なら、そのナガモノはもっと使い難いだろ!」

 一気に間合いを詰める。その時の両手を広げた姿は、猛禽類が羽ばたきを連想させる。


「やっぱ、そう来るよね!」

 ジグザグに近付いて来る赤色機体に、機体を全速力で後退させながら、狙いを付ける。


「とう!」

 軽量級の特性を活かした戦いが、小南の機体との間合いを詰める。そして、白兵間合いに入るや否や、振り下ろされる右の中剣。


「ヤバっ!」

 機体の右足を軸にして左足を後に下げ、その場旋回し、元いた場所を空(くう)に渡す。そこを赤色機体の中剣が斬る。


 旋回の勢いのまま、軸足を入れ替えながら半円旋回を繋げ赤色機体との間合いをとる。

「まさか、私がこんな動きをするなんてね。」

 脳裏に浮かぶのは、可愛い後輩の姿ではなく…、負けられない敵としての後輩の姿。


 狙撃機体には似つかわしく無い動きを目の当たりにし、

「やるじゃないか。」

と、嬉しそう。


「さあ、仕切り直しだ。」

 操縦桿を握り直す小南。


「楽しませてよ。」

 口元を緩ませる鷲雄赤音。


「やぁ!」

 短く気合を入れペダルを踏み込む小南。


「とぉぉぉぉぉ!」

 尾を引く長い気合を入れながらペダルを踏み込む鷲雄赤音。


 二機は戯れ合う様に、間合いを詰めたまま移動の軌跡をぶつけ合う。


 猛禽類の羽ばたくが如く力強く振り下ろされる二本の剣。


 当たれば大ダメージのスナイパーライフル。


 繰り返される肉迫の攻防戦。


「狙いが定まってきている…。」

 スナイパーライフルから放たれる弾丸に肝を冷やす回数が増えたのは事実。


「そろそろ、機体が持たないか…。」

 致命傷は辛(かろ)うじて避けているが、機体の装甲に刻まれいく傷は、確実に耐久力を削っていた。


「この一撃に。」

 集中する鷲雄赤音。

 赤色機体をダッシュさせる。


「狙い撃つ。」

 狙う目は猛禽類最強の鷹の目。


 赤色機体がジグザグに前進し、狙いを絞らせない。


 スナイパーライフルの銃口が見えない糸で繋がっている様に、赤色機体の動きに合わせ、ふわりふわりと動く。

 動きの中に必中のタイミングを見抜くのは、天性のスナイパーとしての素質、

「そこだ!」

 トリガーから発せられた必殺の合図は『ズキューーン』と赤色機体の頭部を粉砕した。


 瞬間モニターがブラックアウトし、次に映し出されたのは正面を映す割合が四分の一程のライブ情報。

「まだだ!たかがメインカメラが壊れただけだ!」

 頭部が破壊されメインカメラが使用不能となり、胸の辺りのサブカメラに切り替わったと言う事。


 破壊の影響ではスピードは落ちず、一気に間合いが詰まる。

「とうりゃ!」

 二対の中剣の羽ばたきから繰り出される斬撃は、左からの袈裟懸けと右からの袈裟懸けにし、小南の機体を『☓の字』に斬り裂いた。


 表示される[LOST]の文字。

「クソっ。狙い所が正直過ぎたか。」

 掛けていた狙撃ゴーグルを乱暴に外した。


「当たったのがもう少し下だったら、負けていた…。」

 勝敗は紙一重。ぎりぎりの戦いだったと鷲雄赤音は実感する。

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