第96話 豹

「赤色には上手く抜かれましたが、小南さんなら大丈夫でしょう。」

 目の前の黄色機体に集中する副部長。

操縦桿を握り直し、

「さてと、いきますよ!」

 トリガーを引く。

 回る砲身から放たれるガトリング砲が黄色機体を襲う。


「何の!」

 構えたシールドが『カンカン』と音を起て弾丸を弾いていく。


「やっぱり、あの盾は厄介ね。どうするか…。」

 機体を右に左にと角度を付けながらガトリング砲で撃ち続ける。が、黄色機体は、その場からゆっくりと動きにがら向きを変えシールドで弾き続ける。


「お返し!」

 トリガーを引き『ドォーン』とバズーカ砲で反撃する。その弾は長い煙の尾を引き副部長の機体に迫る。


 回避するも、近くに着弾し爆発する。

「直撃は避けられるけど、爆発のダメージは避けられないわね…。」

 副部長の言う通りに直撃しないまでも、爆発による機体へのダメージが蓄積されていく。

「シールドでガードできない方向から攻撃できる程のスピードは無いし…。」

 間を置き、

「使うか…。」

 決心した。


「弾薬と耐久力は、まだ十分ある。」

 モニターを確認しながら呟(つぶや)く豹頭黃亜。


 一瞬目を瞑(つむ)り、『クワッ』と開く。

「いきます!」

 ガトリング砲を構え、右へと機体を移動させながら黄色機体へと弾丸を切れ間な撃ち込む。


「その攻撃では、このシールドは破れないと判りませんか!」

 『カンカンカン』とシールドの表面が五月蝿く鳴く。


「これも!」

 両肩と両脚のミサイルを、目一杯発射。

 同時に黄色機体に向かってダッシュ。

「なんだか、日向さんみたい。」

 照れ隠しに笑ってしまっていた。


 爆発するミサイルをシールドで受けつつ、

「同じ事を。」

 苛立(いらだ)ちの感情が表に出始めるが、はっとし見る、

「突っ込んで来る!?」

 レーダーが告げていた。


 右手でガトリング砲を腰の後ろに収納しつつ、左手で背中側から引き出したのは[柄(つか)]。それは、白兵武器の握り。

 続くのは刀身では無く、鎖。『ジャラジャラ』と音を立てながら引き出される。

 引き出された鎖の先は、『ズドン』と地面に大穴を穿(うが)った。


「あれは! 鉄球!?」

 誰かどう見ても鎖の先あるのは鉄の球体。しかも、大きい。副部長さんの機体は重火力タイプだから、白兵武器も重火力なんだ…。イメージ崩さななぁ。


「あれ? 副部長って鉄球なんて使ってました?」

 部長さんが疑問を口にした。

「最近、練習してますよ。」

 美星先輩が答えた。

 そうだったのか…。

「なるほど、新たな試みは良い事です。」


 引き出された鎖を両手で手繰(たぐ)り、左手に輪を作り長さを調節し『ブォーン』『ブォーン』を低い音を響かせながら、右手で頭上の上に円を描き回し始めた。

 迫力満点だ。

「とやー!」

 回転運動から直線運動へと移行して黄色機体へと襲い掛かった。


 攻撃の合い間を縫う様にシールドを少しずらし、バズーカを構える。

 開いた視界に見えたのは襲い掛かってくる大きな鉄球!

「そんなものぉ!」

 再度シールドを構えた直後『ぐわん〜わんわん〜』と衝撃が機体を後退させ、大地を二本の線がえぐった。


 素早く、モニターでダメージを確認し、

「流石!【悟李羅(ごりら)】だ何とも無いぞ!」

と、安堵した。


「やっぱりシールドで防がれたか…。」

 結果を確かめ、

「では、これなら。」

 左足を軸にし右足を後退させる旋回と右腕を引く動きで、円を描き素早く鉄球を回収…しないで副部長の機体を通り越す。

 そして、黄色機体と反対方向に伸び切る鎖。そのタイミングで次の動作へと移行する。

 旋回に合わせ右腕を振り上げる。そこから、更に旋回し黄色機体を正面に捉えた時に、振り下ろされる右腕。遅れて鎖が空へと舞い上がり、続けて鉄球が高く打ち上げられる。

 鎖が伸び切る場所が頂点となり、鉄球が一瞬停止する。

「はっ!」

 鎖が引かれる。と、頭上の鉄球が孤を描きながら黄色機体へと落下を始める。


「まさかの粉砕鉄球だなんて。」

 そこへ『ぐわしゃん』の音と共にモニターの景色が揺れた。


 直後[ALERT]の文字とと共に機体へのダメージ警告に、続きバズーカ砲が使用不能と告げた。

「な、何が?」

 気が付いた。シールドの上部に掛かっている鎖と、それに繋がる鉄球の存在に。

「上から鎖を使って鉄球を当ててきた…。」

 銃器等の直線的な攻撃ならばシールドはかなり有効だが、今の様な曲線攻撃は有効で無い場合がある。


「良かった、当たった。」

 練習不足を一番知っているのは自分だから…。と、また旋回に合わせ鎖を引く。

 今度は、鎖を調整し頭上で『ブォーン』『ブォーン』と回転させた。


 全力で下がり、間合いをとる。

「これからが本当の戦い。」

 自分に気合を入れる豹頭黃亜。


 そして、新たな武器をセレクトした。

 バズーカ砲を捨てた右手が、シールドの裏に伸び武器を取り出す。


「げっ、あれは…。」

 驚いたと言うよりは、ちょっと嬉しかった。

「ド、ドリル!!」

 だって、ドリルなんだもん。


 シールドの裏から取り出したのは細長いドリル。それを垂直に立てる様に持つと、柄(つか)が『ギューン』と、伸び石突き(槍の柄の先)が地面へ『ガッ』と当たった。


 このドリルランスもドリルと柄を繋ぐ辺りに豹のデザインがあったとか。


「ドリルランス!」

と、部長さん。

「また、マニアックな武器…。」

 美星先輩が突っ込んだ。

「と、言う事は…。」

 ためる部長さん。

「何ですか?」

 聞く係の美星先輩。

「あのシールドは最高クラスの防御力…。そして、あのドリルランスは最強クラスの貫通力…。」

「それって…。」

 美星先輩が唾を飲む。

「そう、あの【矛盾】が再現されたわ。」

「それじゃあ…。」

 最後の方は小声になっていた。


「大丈夫よ。『どんな矛も通さない盾』と『どんな盾も通す矛』を装備しているとしても。」

「何故ですか?」

 うんうん、私も聞きたかった美星先輩。

「だって…。」

 ためないで部長さん。

「副部長の機体は矛じゃなくて鉄球だし、それに盾も装備してないわ。」


 『ズルッ』コケたよぉぉぉぉぉ! 私と美星先輩が。

「確かにそうですね…。」

 立ち直った美星先輩が賛同した。


「とりゃぁぁぁぁぁ!」

 ドリルランスを腰溜めに構え、タイヤを高速スピンさせ突進してくる。まるで、闘牛みたい。


「やぁぁぁぁぁ!」

 頭上の円運動から繰り出される鉄球。


 それは、見事に明後日の方向へ飛んで行く。

「練習足りない。」

 照れ隠し。

「でもぉ!」

 『グイッ』と引かれる鎖で、鉄球のベクトルが変わる。


「あっ。あの鉄球を操れるのは、副部長さんの機体の重量があるからだ…。」

 私の頭から『もやもや』っと再生されたのは【リョウサン】であの鉄球を使ったと仮定したやつ。

 『グォォォォォォ!』って飛ぶ鉄球に『ズルズル』と引っ張られる【リョウサン】…。駄目だこりゃ…。


 ベクトルの変わった鉄球は、黄色機体の背後に迫る。

 が、ベクトルが合わず横を通り抜けた。


「とうぉ!」

 突き出されたドリルランスが、副部長さんの機体の胸の装甲に当たる。機体を捻り風穴を回避した結果、装甲がドリルに削られた。


 外れた鉄球は、直ぐに手元に戻された。そして、右手が握ったのは鉄球に近い位置。その位置から鉄球を繰り出すのではなく、殴り付けたが微妙に届かない。


「不慣れな武器を実戦で使う心意気は褒めましょう。」

 突進の勢いで副部長の機体に背を向けてた黄色機体は旋回した。

「でも、それは間違いだと教えましょう!」

 再び、副部長の機体を正面に捉える。

「てやぁぁぁぁぁ!」

 気合と共に再び突進。


「やぁ!」

 繰り出される鉄球は、今度は狙いを外さず黄色機体へと一直線。


「当たらなければ!」

 ギリギリまで引き付け、機体の軌道をずらす。鉄球が機体の脇を抜けたのはやり過ごしたと言う事。


 更に間合いを詰め、

「とうぉ!」

 突き出すドリルランス。


 それは、副部長の機体の左肩の少し下から、腕を貫き粉砕した。その勢いで独楽の様に回転する副部長の機体。


 そのまますれ違い、間合いをとり、

「次…。」

 言いかけた時、モニターが左右に揺れる。

「!?」

 何が起きているのか理解できなかった。

 モニターに映るのは、自分の機体を中心にして鉄球が周っている…、しかも、鉄球との距離が短くなりながら…。


 左腕を吹き飛ばされ、独楽の様に回転と思われたが、少し違う…。

 左腕を吹き飛ばされたタイミングで、自ら機体を旋回させていた。そして、残った右手で鎖を伸ばす。

 これが、正確な表現。


 機体の旋回に少し遅れて鎖が追従し、更に遅れて鉄球が追従する。それは、大きな円を描きながら黄色機体の真横から襲い掛かる。

 鎖が機体に当たり、そこを中心とし鉄球が周り、絡み付いていた。


「捕まえ〜た。」

 目の前に見えるのは、シールドに守られていない無防備な背中。


「そ、そんな…。」

 操縦桿を動かすも、機体は絡み付いた鎖のおかげで反応しない。


「それ!」

 両肩と両脚のミサイルが『これでもかぁぁぁぁぁ!』と言う程に撃ち込まれた。


 『ちゅどどどどーん』爆発が連鎖的に起き、長い一つの音に聞こえた。


 モニターが赤くなり[LOST]と表示され、機体が擱座(かくざ)する。

「勝ちを確信した時が一番の油断だと忘れていた…。」

 項垂(うなだ)れた。


「何とか勝ちましたが、まぐれ勝ちと言う事に近い…。まだまだ、練習が足りません。」

 モニターで機体の状態を確認した。

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