第89話 畏れ

 私は気が付いた、横にいる部長さんから『メラメラ』と燃え上がる黒い炎に。


 黒い炎は、一層燃え上がり続け大きくなり形を変えた。それは、巨大な蝙蝠を思わせる翼を広げた悪魔の姿。


 その姿を見た私は恐怖で、凍り付き動けなくなった…。何だ、これは! まるで正気度が一気に下がった?


 唯一動く、目でうちの部員の方を見ると、同じく恐怖で凍り付いていた。更に、顔が某恐怖漫画の様に『ぎゃー!』ってなってた。


 ゆっくりと反対側に目を向けると、対戦相手のチームのメンバーも同じ様に凍り付き『ぎゃー!』の顔になっていた。


 たぶん、この体育館にいる人の中で動いているのは、うちの部長さんに背を向けているエロ部長さんだけだ。


 観客の女子生徒も『ぎゃー!』ってなってたし。


 しばらくすると、黒い炎の悪魔は空気に溶ける様に徐々に薄くなり、やがて消えた。で、呪縛から開放された。良かった、もう駄目かと思ったよ。


「戻りますよ。日向さん。」

 部長さんの声は、地獄の底から響く様だった。

「は、はぃ…。」

 まだ、完全に呪縛から開放されていないのか、ぎこちない動きで部長さんを追った。


 何とか皆のところへ戻れた。こちらも呪縛から開放されつつあるみたいだ。


 そして、部長さんが低い声で、

「バストサイズの差が、戦力の決定的な違いで無い事を見せるのです!」

 部長さんがぁぁぁぁぁ! ヤバいぃぃぃぃぃ!


 『カキーン!』とまた、私達は凍り付いた。

 正気度⬇ダウン⬇


「はっ!」

と、一番先に我に返り、呪縛を破ったのは副部長さんだった。


 直ぐに部長さんに駆け寄り

「部長。落ち着いて下さい!」

と、両肩を揺する。

「私は落ち着いてますよ…。」

 その声は、低くまだ地獄の底から響いている。

「だ、誰か。お水を。」

 副部長さんが言うと、

「はい。お水。」

 百地先輩がペットボトルを差し出した。流石、百地先輩。ちなみに、私はまだ動けないからね。


 部長さんにペットボトルを持たせキャップを取り、

「お水飲んで落ち着いて下さい。」

と、声をかける副部長さん。


 その言葉に反応したのか、ゆっくりとペットボトルの飲み口を口へと運ぶと、部長さんの喉が『ゴクゴク』と鳴った。

 しかし、反応は無かった…。

 駄目だったか…。


「あら、皆さん。早く、準備しないと始まりますよ。」

 よ、良かったぁぁぁぁぁ! 部長さんが元に戻った!

 きっと、悪魔と契約する前のお試し期間だったんだ。


 あっ、私動ける様になった。


 そして、

「ふーっ。(✕6)」

 皆で胸を撫で下ろた。


 しばらくすると、体育館も先程の『うねり』を取り戻し、通常運転へと。


 たぶん、それはほとんどの人が恐怖のあまり記憶が飛んだんだと思う。


 部長さんに、禁忌があると皆は思い知った。


 キンキ(禁忌)…。それは、地方の子供達では無い。決して、触れてはならないもの…。


 以後、気を付けよう!



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