第86話 力作
それから、少しの間…。私の夢見は普通だった。覚えてないだけかもだけど。
こんな普通な朝も良いよね。
明日は練習試合の日に、ようするに前日…。私は衝撃的な場面に出会(でくわ)した。
「今日は、少し早いですが部活を終わりましょう。」
と、部長さん。
「明日は、練習試合です。用意は向こう側で行ってくれるのですが、こちらも準備はして行きましょう。」
「ですね。」
副部長さんが賛同した。
「では、皆さん。遠征準備をしてください。」
「は~い。(✕5)」
何故、五人かって…、それは、私が何していいか分からなかったから…。
「えっと、何したら良いんですか?」
部長さんに聞いた。
「日向さんは、初めてだったわね。」
「はぃ、何していいか分かりません。」
「では、私を手伝ってください。こっちへ。」
と、部長さんはコックピットルームへ向った。
そこで見たのは、コックピットを最大まで開いた状態でゴソゴソと作業している皆。
「ここをやりましょう。」
と、作業していないコックピット。
手をかけ『ガラガラ』と開き中へ体を突っ込む部長さん。
「日向さん。反対側から中を見てください。」
「はい。」
と、回り込み中を覗き込と、
「ここから、手を入れてこのストッパーを外し、更にコードのコネクターを外すと…。」
部長さんは、言いながらゴソゴソ。
「で、本体を引っ張ると…。」
操縦桿の辺りを引っ張ってる?
「はい、取れました。」
!?
驚いて目が丸くなった!?
二本の操縦桿が台座に付いた状態でコックピットの定位置から外れてた!
「それ、外れるんですか!?」
「外れますよ。」
操縦桿があった場所には、長方形の台座の形がスッポリと抜けていた。
「で、こっちは…。」
今度は下のペダルの方へ潜る。
「ここのストッパーを外し、コネクターを抜く…と。」
ま、まさか…。
「外れます。」
ペダルも台座が付いた状態で外れてた。
他にも、外れるんだろうか…。
部長さんは外した操縦桿とペダルをコックピットの外へ出した。
「では、次はやってみますか?」
その時、ちょっと疑問に思った事を聞いてみた。
「あの…。」
「何かしら?」
「他も外れるんですか?」
「他?」
「ほら、横のボタンがいっぱいの奴とか…。」
「ああ、これね。今、外した以外はほぼダミーだから外しても持っていかないわよ。」
「え、えぇぇぇぇぇ! ダミーだったんですかぁぁぁぁぁ!」
衝撃的な真実!!
「ええ、だから殆ど使わなかったでしょう。」
思い出せば、使ってなかった…。
「何か問題?」
小南先輩を筆頭に他の皆が集まって来た。
「わ、私…。コックピットの全部が操縦に必要だと思ってました…。」
「これはですね…。先輩方の力作なのですよ。」
と、部長さん。
「ほら、やっぱりイメージというか、雰囲気は大切だからね。」
小南先輩が目を瞑り腕組みして、うんうんと顔を上下させた。
「極端な話…。教室の机にモニターと、この操縦桿。足元にペダルとパソコンを置けば、それでできるんですよ。」
部長さんの言った事を、もやもやっと想像してみた…。
「それって、できるだけですね…。」
「そうです。雰囲気も何もあったものではありません。」
「ロボットは、コックピットで動かす! ですね。」
「そうなのです!」
部長さんが力強く言った。
「だから、先輩方は苦労して…。このコックピットを作り上げたのです。」
「先輩方に感謝しないとですね。」
物凄く、コックピットを作り上げた先輩方に感謝した。
少し間を置いて部長さんが、
「では、隣をやってみてください。」
「はい。」
先輩方に感謝しながら、外してみた。
外した操縦桿セットとペダルをブリーフィングルームの机の上に置くと、
「折角だから、メンテナンスしときましょう。」
「そうですね。」
小南先輩が工具箱とスプレーが入った箱を持って来た。
私は教えもらいながら、溜まった汚れを落としてスプレーで潤滑剤を注入した。
「では、これを専用の箱に入れてと…。」
美星先輩と副部長さんが箱を出して来た。
「で、専用のバックに詰める。」
百地先輩がいつの間にかバック持って来てた。
全てのメンテナンスとバック詰めの終わりで、本日の部活終了。
「明日は、午後からの移動になります。早目の集合で。」
「は~い。(✕6)」
「では、今日は帰りましょう。」
同じく、
「は~い。(✕6)」
いよいよ、明日は練習試合だ。
どんな強い人が待っているのか…。
ワタシ、ワクワクすっぞ!
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