第82話 未完成

 予定より遅れて宇宙要塞に入港した。


「思ったよりも戦闘開始が早かったですね。葵大佐。」

と、ブリッジのクルー。

「お陰で予定が狂ったよ。私は、このまま部長司令官に会いに行く。いつでも出港出来る様にスタンバっててくれ。」

「了解しました。」


 戦闘で、皆が忙しく行き来している通路を抜けて司令官のいる場所へと向かう私。


 兵士に、

「部長司令官殿は?」

「今は作戦室かと。」

「了解した。」


 作戦室に入ると、

「無事に到着しましたか。」

と、ここの女性部長司令官。

「戦闘宙域を迂回したので、予定より遅れました。」

「思ったより敵の進軍が早かったですね。」


 不意に後頭部を引っ張られる感覚に振り向く。

 作戦室はこの施設の中心部辺に位置しているので、外など見えるはずもないのに。

「『白い奴(桃河さんだ!)』が居ますね。」

「分かるのですか?」

「何と無くですが。」

「ほう。それが新しい人類…転生者としての力ですか。」

「確証はありませんから、たぶんとしか。」

「で、なんとしますか? ずっと追っていた『白い奴』がこの宙域で戦っているのでしょ?」

「出たいのは山々ですが、現在私の機体は調整とデータ収集の為にバラバラです。」

「そうですか···。」

と、横に控えていた兵士に耳打ちした。


 その兵士は壁の通信用モニターのスイッチを押し話た。


 そして、部長司令官の元へ帰ると耳打ちした。

「葵大佐、使えそうな機体があるそうです。出ますか?」

「それは、願ったり叶ったりですが。」

「試作ですが、乗りこなしてみせてください。」

「了解しました。『白い奴』を墜としてみせましょう。」

「期待しています。」

と、先程の兵士がファイルを差し出した。


 格納庫まで移動しながら、先程ファイルに目を通す。

「完成度は80%といったところか。」


 格納庫入口で担当の技官が待っていた。

「葵大佐ですね。」

「出られるかね?」

「出られますよ!」

と、強く言う。

「完成度は80%らしいが、本当に大丈夫かね?」

「80%? 冗談じゃない! 完成してますよ。」

 機体が見えてくる。

「大きいな。」

「ええ、新しいシステムの関係で…。」

 機体の全体が見えた。

「腕は付いていないのか?」

「あんなの飾りです! 偉い人にはそれが分からんのですよ!」


 ………。


 ……。


 …。


「駄目じゃん! 腕は要るでしょうぉぉぉぉぉ!」


「要るでしょうぉぉぉぉぉ!」

 キョロキョロ…。見えるのはいつもの天井。

 横ではアカ助がぐっすり寝ていた。


 そう言えば、昨日帰りに、

「赤くて角が付いている三倍速い機体のパイロットって、ずっと同じ機体に乗ってたんですか?」

と、美星先輩に聞いた。

「いえ。そのパイロットは結構な勢いで機体を乗り換えてました。」

「へー。」

「最後は、試作型の完成度80%の機体で出撃しました。」

「80%ですか…。」

「その上…。」

「未完成な上に更に…。」

 『ゴクリ。』と固唾を飲んで身構える。

「な、なんとぉ! 赤く無い機体だったんですよ。」

「えぇぇぇぇぇ! じゃあ、三倍速く無いんですか!」

「たぶん…。試作型だから他に比べる機体無いし。」

「なるほど。」

と、話したのが、原因だね…。


「朝から疲れたよ。」

 アカ助に言ったが、何も答えてくれない。


 でも、この夢は大丈夫なの? 怒られない?


 目覚ましの音が、私を朝の忙(せわ)しない時間へと誘(いざな)った。

「起きよう。」


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