第72話 赤
「セッティング終わりました。」
部長さんから少し遅れた。
「了解です。」
「では、セットアップに入ります。マップのサイズは小の中、地形はランダムで良いですか?」
「それで、お願い。」
と、部長さん。
「セットアップ開始します。」
部長さんは【リョウサン】使うって言ってたから、条件は同じだ。後は装備だな…。
この前の次期主力機体発表会で使った機体からヒントを得て、武装の一部を換装してみた。
かっこ良く言ったけど、最初に使ってた装備のシールドを中サイズにして、射出式のグレネード弾付けただけ。
色々やってみたけど…。これが、今までで一番シックくる。殆ど、初期と変わらないとは…。流石、汎用型量産機だ。
セットアップが終わると、マップ選択に入った。
モニターに映るマップが早い速度で切り替わっていく。次第に切り替わる速度が落ち、最後は止まった。
選択されたマップは、[ターミナル]。平地で所々に障害物…、遮蔽物(しゃへいぶつ)がある。大きさ的に十分隠れられる。
マップが決まると少しの間をおき、格納庫からのリフトアップが始まった。
地上に出ると、少し離れた位置に部長さんの機体が上がる。
「赤い機体!?」
同じ【リョウサン】だけど、部長さんの機体はカラーリングが変わっていた。
具体的には、胸部と肩口の装甲、そして膝から下が小豆色で、残りの両腕、両脚の膝から上、お腹に頭がピンク色の濃い色。やっぱ、『赤い奴』って呼ばないと駄目だよね。
特徴的なのは、頭には角が付いてる!人間で言う額から後頭部に向かって流れる様な角だ。
黒いのパーツが全身に付いてる? アクセサリーかな? でも、データはスマホからだから、全身アクセサリーは出来ないはず。だとすると、何かの装備だ。
両肩には上に三個、下に二個のニ列に並んでるポッドは、ミサイル…違う。あれは、ロケット砲。ホーミングしない代わりにダメージが大きい奴だ。
手にしているのは、キャノン砲…じゃ無い! ライフルだ、この前発表会で私の使った奴を一回り大きくした感じだ。多分、スーパーヘビーライフルって奴じゃないかと思うけど、それにしても大きいな、ライフルと言うよりは戦車の大砲って感じ。しかも、両手持ち…。
思い出した。
前に射撃武器の[片手持ち]と[両手持ち]の違いを部長さんに教えてもらったのを。
あれはファイルで武装見てて、疑問に思って聞いた時だ。
「あの…。」
「何かしら日向さん。」
「ライフルって片手でも、両手でも持てるじゃないですか。違いってあるんですか?」
「日向ん。鋭いね。」
小南先輩が割り込む。
「そうね。中々、良い質問ですね。」
と、キョロキョロする部長さん。何だろう?
「実際に体験した方が解りやすいので、やってみましょう。」
部室の隅の掃除道具入れロッカーに行き、中からT字の箒(ほうき)を出した。
「後は重り…。」
「これどうですか?」
副部長さんが鉄アレイを思って来た。
「それ、良いですね。」
と、T字箒の柄(え)の真ん中辺に鉄アレイをぶら下げた。
でも、鉄アレイって…、何で部室にあるの?
「では、日向さん。箒をライフルに見立てて、先ずは右手で構えてみてください。」
「はい。」
箒を受け取った。ライフルに見立ててるなら、端っこ辺りを握って構えるだな。
「こんな感じですか?」
「はい、そんな感じです。では、私に先を向けてください。」
鉄アレイのお蔭で、先が思った様に定まらない。何とかできた。
「次に、小南さんの方へ向けください。」
向きを変えると『ツツッー』って流れて、何処行くのってなった。それでも、何とか向けられた。
「今度は左手を使って柄に付けた鉄アレイを両手の間にする様に構えてください。」
ライフルなら、前側のグリップを持つ感じで構える。
「先程と同じ様に私に向けてから、小南さんへ向けてください。」
両手使ってるから、先は安定して向けられた。
「どうですか?」
「片手の方が不安定です。」
「その不安定が、ライフル等の射撃武器のブレ…、狙った所からのズレとして再現されるって事です。」
「なるほど。両手で扱う方がブレ難いって事ですね。」
「そうです。その代わりに盾が使い難いですが。」
そっか…やっぱり、良いことばかりじゃないのか。
片手と両手の持ち方での違いは分かったんだけど…、もう一つの疑問を聞いてみた…。
「あの…。」
「まだ、疑問が?」
と、部長さん。
「この鉄アレイって何で部室にあるんですか?」
「あっ、これね。」
と、副部長さん。
「ほら、これにリボン巻くと可愛いでしょ。」
「はあ…。」
全く意図は解らないし、可愛いかは不明だ。
「で、体に付けると…。」
体に付けるって何!?
「なんと言うことでしょう。」
何処かで聞いたフレーズ調になった。
「女子高生にぴったりの可愛いと転生者の器を鍛え上げるアイテムに早変わり。」
「えぇぇぇぇぇ!」
あれも、まだ進行中なのぉぉぉぉぉ!
「よかったら付けてみる?」
リボン巻いた鉄アレイを何個か出して来た副部長さん。それを見た私は思わず
「それ、何処から見ても鉄アレイですよね。」
副部長さんが『ガーン!』ってなって、手を床に落として四つん這いになった。
「リボン巻けば解らないと思ったのに…。」
部長さんが、近寄り後ろから肩を抱き起こす。
「諦めないで、考えましょう。」
「部長…。」
ここだけ見たら青春の一ページだけど…、何か違うぅぅぅぅぅ!
思い出してたら、戦闘開始のカウントダウンが始まった。
外観から見えない装備は、何だろう?それと、部長さんの強さは?
考えただけで、ドキドキしてきた。
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