第49話 世紀末

 部活初めの日課のトレーニングを終え、部室に戻ると、副部長さんがぴょんぴょん跳ねる様に近付いて来た。この動きで近付く副部長さんは機嫌が良い時だと、前の時に解った。

「日向さん。制服に着替えてください。」

 いつもなら着替えるのは帰る前なのにと思いつつ、着替えを済ませブリーフィングルームへ戻って来る。

「じゃあ、目を瞑(つむ)ってください。いいと言うまで開いちゃ駄目ですよ。」

 何だか嫌な予感を感じつつ、副部長さんの指示に従った。


 全身をわさわさと触られる感覚…。とは違うかな? 判るのは何かされているって事だけ…。


 暫く続き、不意に感覚が無くなった。

「目を開けても良いよ。」

と、副部長さん。

 それを聞き、ゆっくりと目を開くと、目の前にちょっと大き目の鏡を持った美星先輩と百地先輩がいた。


 鏡に映った自分の姿を見た私は、

「な、なにコレぇぇぇぇぇ!」

と、叫んでいた。

「ほら、前にコスチュームの話があったじゃない。」

 小南先輩が嬉しそうに言った。

「ありましたけど…。」

 目線を下げ、鏡に映ってないところを確認した。


 と、とりあえず、私の姿を描写。

 上から…。

 顔の周りだけを覆い、顎の辺りで切れているカタカナの【コ】を左に回転させたみたいな面当(めんあて)に、牛の角みたいな奴が付いている。それも、大き目サイズ。

 胸には、アメフトでよく見る胸当てに似たものに、棘がいっぱい付いてる。それに付属する様に、肩当てが付いてて、長い棘がいっぱい…。

 肘当てにも、長い棘がいっぱいだ。肘から先を覆うように腕当があり、それは手の甲まで伸びていた。当然、棘がいっぱい。

 ベルトは、バックルに付いたドクロが目立ち、やっぱり棘がいっぱい。

 いっぱいの棘の付いた膝当てと一体になった脛当てと足の甲当ては棘だらけ。

 両方の踵のところには、後斜め上に伸びる二本の長い棘。足を動かすと『カチャ、カチャ』と音がする。

 あっ、黒いマントもあった。背中の半分ぐらいまでのサイズ。裏地が赤なのはお約束?


「ズバリ、題材は『世紀末女子高生』です。」

 副部長さんが嬉しそう言う。

「でも、残念なのは…。」

 残念なのは、この姿の私の様な気がするのは気のせいかな…。

「マントが、毛皮じゃ無いのよ。流石に毛皮はね。」

 本当に残念そうな副部長さん。

「今度、本家に行ったら探してみますよ。」

 百地先輩の本家ならありそうで怖い…。

「やったー!」

 副部長さんが、ぴょんぴょんした!

「これコスチュームだと、パイロットカメラで外のモニターに映し出された時に、絶対にカッコいいと思うのよね。」

 副部長さんが力説して、グググッて拳握った…。

「だからね。やってみましょう!」

と、後ろから押されてコックピットルームへ移動。で、コックピットへと入れられた。


 ガラガラっと、コックピットの蓋が閉まる。

 半ば諦めて、操縦桿へ手を伸ばそうとした時、

「あっ、駄目だ。」

と、蓋を開けてコックピットから出た。


「あの…。」

 モニタールームへ声をかけると、皆がこっちを一斉に見た。

「どうしたの?」

 首を傾げながら、副部長さんが聞いていた。

「これ駄目です! 棘とかがコックピットの中であちこちに当たって、操縦出来ないです!」

 一瞬の沈黙…、からの反応。


 部長さんは、左手の甲を額に当てて、『ガック!』って…。悲劇のヒロインみたいな感じで。


 副部長さんは、右手で両目を隠して天井を向いた。「アチャー。」っ感じ。


 美星先輩は、額から目にかけて縦線が何本か入った。「ガーン!」って感じ。


 小南先輩は、両手でほっぺたを持ち上げ、口を「オー。」の字にした。言わいる『ムンクの叫び』っ奴だけど。本当は耳を隠してるんだって。


 百地先輩は、壁に頭をよりかけてた。何だか、その周りに黒い空間が広がってた。落ち込んでるって奴だと思う。



 流石、部長さん。一番早く立ち直り、

「まさか、そんな盲点があるとは…。」

「で、ですね。」

 副部長さんも立ち直った。

「やはり、背負う形式にして大砲とか、機銃を付けた方が良かった?」

 右手を顎に当て「ふむぅ。」ってポーズの部長さん。

「それは、もうありますから。」

 やっぱり、突っ込むのは美星先輩。

「じゃあ、スク水に潜水用具と魚雷は?」

 小南先輩も立ち直った。

「それも、ありますから。」

「えー。私のアイデアがもう真似されてるぅぅぅぅぅ。」

「はいはい。」

 そこは突っ込まないんだ。

「やはり、ここは…。」

 百地先輩も立ち直って、皆でわいわいがやがや状態になった…。


「あの…。」

 聞こえてない…。

「あの!」

 今度は、皆でこっちを向いてくれた。

「これ外してください…。練習できないです。」

「確かにそうですね。では…。」

 良かった副部長さん外してくれないかと思ってた。


 皆がポケットに手を入れた…。


 ん?


 取り出したのはスマホ!? こっち向けた…。

 『パシャ!』『ピロリン!』『カシャ!』『ポロロン!』色々な音が連続で流れてる…。

「な、何を?」

「いやあ、折角だからね。写真撮っとこうと。」

 言いながら、写真を撮る小南先輩。皆も「うんうん。」と撮ってる…。

「今後の参考にしますから。」

と、部長さん。


 その後、色々なポーズをとらされたのは当然の流れ…。

 そして、皆の気が済んだのか写真撮影が終わり、世紀末コスチュームを外してくれた。



 私は見てしまった…。


 その日の部活の帰りに、何気なく見た壁のホワイトボード…。前に色々と書いてあったあのホワイトボード。


 [世紀末女子高生]に、大きく☓(ばつ)がしてあり、[勇者女子高生]と書いてあった…。


 どうやら、次は[勇者女子高生]のコスチュームらしい。



 朝、目覚めると何だか体が怠い感じ…。よく寝たはずなのに…。


 朝ご飯を食べていると、お母さんが

「葵、あんた今朝は何かしてた?」

「何で?」

「今朝、部屋から『ヒャハー!』とか『オラオラ!』とか聞こえてきたから…。」

 夢覚えて無かったけど、想像するのは難しい事じゃないよね。

「何でもないよ…。」

と答えた。

 私の目はもう死んでいる…。

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