第45話 大地に
呼び鈴も鳴らさずに、ずかずかと入って来た。
「ほら、葵。用意しないと駄目でしょ。」
「そうなんだ。」
心ここにあらずの返答。組み立てしている手は止めない。
勝手知った実宏がバックを出して荷物を詰め始めた。
「とりあえず、最低限いるものだけ持って行くようにだってさ。」
意見も聞かずに、どんどんバックに詰めていくのは、如何にも実宏らしい。
暫くして、
「こんなもんでしょ。」
バックの上のチャックを閉める。
「さあ、行くわよ。」
と、腕を引っ張って外へ連れ出された。
「私は、家に寄って様子見てくるから、先に行ってて。」
と、バックを渡された。
返事をしようとを、口を開きかけた時、実宏は素早く振り返り駆け出して行った。出しかかった返事を飲み込み、振り返って実宏と反対方向へ歩き出す。
広場に大型のトレーラーの荷台に幌(ほろ)を掛けた状態で停めてあるのが見えた。
それを見た時に無意識に、そっちに向っていた。
近付くと、トレーラーの周りで作業している人達がいる。
『ヒュルヒュル』と空から音が聞こえてきた。
音の方を見ると、長い筒が煙を吐きながら、こっちに飛んで来ていた。
それは、トレーラーの近くのジープに直撃して大爆発した。
咄嗟に顔を庇ったが、爆風に体ごと吹き飛ばされた。
「痛たたた。」
吹き飛ばされ、ひっくり返っていた。体のあちこちが痛い。
起き上がろとした右足にコツンと当たり、蹴った物を視線が追う。
「本? 違う…。ファイルだ。」
手に取ると、青い縁取り、真ん中は白、そして大きな赤い[V]の文字…。
じゃない、上下逆だ。[V]の反対だから[Λ(ラムダ)]って書いてある。
表紙を捲(めく)り、目に飛び込んで来た文字を口に出して読んだ。
「新型のマニュアル!?」
顔が自然とトレーラーの荷台の方を向く。
「これは、つまり…。」
心拍数が上がっていくのが解る。
「その…。」
更に上がり、ドキドキが止まらない。
「アレだぁぁぁぁぁ!」
最高潮に達した。
直様、荷台に上がり幌(ほろ)を剥(は)がす。
現れたのは、見慣れたコックピット!
「いつも、部活で使ってる奴と同じだ。これなら…。」
と、入り込み座る。
パネルは、あちこちが明るくなり、起動状態を示していた。
「確か、『こいつ、動くぞ!』って言うはず。」
よしと言わんばかりに、操縦桿に手をかける。
「ん?」
いつもとは感触が違う? 新型だから?
疑問に思いながら、両手の親指でグリグリの具合をチェック!
《ぷにぷに》!?
もう一度やっても、《ぷにぷに》。
その時、右の頬が『ざらり!』
「な、何?」
また、『ざらり!』
目が合ったのはアカ助。胸に乗って右の頬を舐めてる。
私の両手は、アカ助の両手…。違った、両前足を下から握り、肉球を親指で《ぷにぷに》ってやってた。
「道理で…。」
借りて帰ったファイルを読みながら寝ちゃたのが原因だな…。
「新型か、惜しかったな。ちょっと気になる…。」
「にゃあ~。」
アカ助も気になるみたいだ。
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