第43話 鍛錬
日課のランニングも、少し変化が付いてきた。ところどころダッシュ区間をとってより本格的になってた。
だいぶ慣れてきたのは体力が付いてきたからだと思う。
部室に帰り、タイヤを下ろすと部長さんが、
「今日は…。」
「部長さん!」
「何かしら日向さん?」
「今日、やってみたい事があるんですが…。」
少し考えて
「解りました。日向さんはそれで。他の人はチーム組んで百体組手ね。」
「えっ!」
三人が被った。
「前回よりも、多く倒すを目標に。」
直ぐに気持ちを切り替えたのか
「よっしゃ!新記録出すよ。百々っち。副部長!」
小南先輩が気合を入れた。
「頑張りましょう。」
副部長も同じく。
「ふっ。」
笑った百地先輩。やっぱり表情からは何も読み取れない。
後で聞いた話だと『百体組手』は、チームの機体数と同じ数の敵機と戦い、敵機を撃破すると同数になる様に補充され続ける!
倒されず、倒し続ければ永遠に敵が出で来る。百体は目標みたいなものみたい。
でも、こちらは弾薬の補給、ダメージ修理が無いので…。
如何に[ダメージを受けない][弾薬を無駄にしない]で、多く倒せるかの特訓だとか。
聞いただけで、きつそうだった…。
コックピットに入り、セットアップしながら…。そうだ、武装を一回考えないとだな…って思った。
とりあえず、【リョウサン】にいつもの武装のセットを選択する。
「美星先輩。平原ステージお願いします。」
「了解。」
最初は、広い場所でやった方が焦らなくて良いはず。
「敵はどうしますか?」
「とりあえず、無しで。」
「セットします。」
昨日は散々だったのは、全く考え無しにやったから。たぶんだけど。
だから今日は目を瞑り、桃河さんの動きを思い出す。思い出してたら、動きに合せて頭の中に音楽が流れ始めた。
アイススケートショーでよく聴く奴が…。
『た〜ららら〜♫た〜ららら〜♫』って。
ぶるぶるぶると頭を振り、音楽の再生を消す。音楽は余計だ。
「美星先輩、上げて下さい。」
「行きます。」
機体がリフトアップされた。
操縦桿とダッシュペダルを操作しながら、昨日の桃河さんの動きを再現してみる。
やっぱり、直ぐには出来ないな。いっぱい練習しないとだ、と改めて思い知った。
モニター室にて。
疑問に思った美星が
「部長。日向さんは何をやってるんでしょう?」
モニターを食い入る様に見ていた部長は、
「たぶん、機体の挙動を細かく操作する練習?」
「細かくですか?」
「細かくと言うよりは、曲線で動かすかしら。」
言われてモニターを見直す美星。そして、
「あっ、本当だ。機体の動きが曲線になってる。」
「でも、どこで覚えて来たのかしら?」
部長が不思議がっていた。
試行錯誤しながら、動かし方は間違ってないはずと確信できた。
後は、この動きと共にグリグリで狙いを付けられるか? 昨日のは明後日どころか明々後日の方へ撃ってたからなぁ…。
「美星先輩。敵をお願いします。」
「希望はある?」
ちょっと考え、
「私と同じで、ちょっと強いAIにしてください。」
「了解、セットします。」
モニターに[RESET]が表示され、再スタート
出来るかな…。と、とりあえず、やってから考えよう!
「当たれぇぇぇぇぇ!」
『ダダダダァ!』
「なんのぉぉぉぉぉ!」
『ギャゥゥゥゥゥ!』
「そこだぁぁぁぁぁ!」
『ドドドッ!』
「まだまだぁぁぁぁぁ!」
『ババババァァァァァ!』
「喰らえぇぇぇぇぇ!」
『ドッカーーン!』
AIと私の戦いは繰り広げられる。
「ちーぃ!」
『ダダダダ!』
「当たった!?」
『キュキュキューン!』
「ヤバい!」
『スパパパッ!』
モニターが赤くなり、[LOST]の文字が機体の大破を告げた。
あれ? 最初の方は良かったのに、途中から全く駄目だった様な…。
何故だろう?
桃河さんの動きを思い出す。そう言えば、この動きって連続で使ってなかった。
何故なんだろう?
う~ん。昨日の戦闘の再生が始まった。
『こうなって、こうだから…。』動き方は多少の差はあれど出来てるはず…。
じゃあ、何が違うんだろう?
戦ってる相手が私じゃないから? 当然、それはあるよね。
他には、戦ってる相手はAI。
確か、【頭良い(Atama Ii)】の略だったはず。戦っている内に学習するって言ってた。学習って戦い方を覚えて対応だったはず。
覚えて対応…。
そうか! 覚えて対応!
動きに慣れたんだ。本当に頭良いな。だから、桃河さん連続で使ってなかったんだ。
直線的な軌道と曲線的な軌道を混ぜて使う事でより効果を上げてるんだ。
やっぱり、桃河さん凄い。
解ったら、やってみる。試してみるだ。
「美星先輩、リセットお願いします。」
口の中で『葵、上手くやれよ。』って自分を励ます。部長さんに、教えて貰った呪文合ってるよね。
激しい攻防戦(本人談)の末に、[ALERT]がモニターをいっぱいにして、機体が動かなくなり[LOST]が上書きした。やられちゃったか…。
「終わりましょうか。」
部長さんがモニターの小窓から。
「はい。」
手順通りに終了させ、メイン電源を落としコックピットから出る。
コックピットルームからモニタールームへ行き、部長さんと美星先輩と合流して、皆の居る部屋へ移動する。
えっと、部室入って直ぐの、いつも皆が居る部屋の名前は…何だっけな?
ブ、ブリー…。あっ、ブリーフィングルームだ。そこへ行く。
そこには、百体組手やった三人の先輩がぐったりしてた。
よっぽど、キツいのだろう…。
小南先輩は椅子に浅く座り、大の字に反り返ってる。
副部長さんは、机に突っ伏してるし。
百地先輩にいたっては、椅子の上に正座して、湯呑みでお茶すすって、ため息。
「日向さん。今日の動きは何処で?」
いきなりの質問が部長さんから来た。
「日曜日に、テックセンター○○○(マールズ)に行った時に対戦した人がやってたんです。」
「テックセンター○○○(マールズ)に行ったんですね。」
美星先輩が確認した。
「はい。少ししか居られませんでしたけど。」
「何々、日向んが何かやってたの?」
小南先輩が復活し、
「どんな動き?」
と、喰いついた。
「機体を曲線的な軌道で動かすです。」
美星先輩が簡素に纏めた。
「あれかぁ…。」
小南先輩は直ぐに思い当たったみたい。
「あれ、疲れますよね。」
副部長さんが突っ伏したまま顔だけこっち向けてた。
百地先輩は、ズズズとお茶をすすり
「ふぅ。」
と、ため息。
皆知っているんだ。ならばと、興味本位で…
「先輩達はやらないんですか?」
と聞いてみた。
それぞれの回答
小南曰く、
「いやぁ、私は狙われたら駄目っいうか、終わりだし。」
そりゃそうだ。
副部長曰く、
「細かい動きしても回避できないから、装甲で弾く!」
ごもっとも。
百地先輩曰く、
「高速移動で旋回した方が、当たり難いです。」
やっぱり。
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