第11話 呪文

 しばらく、撃ってると

「大分慣れた様ですから、ターゲットを変更します。」

 小窓の部長さんが横を向き、

「R ターゲットに変更してください。色は、目立つ赤にしましょう。」

 カタカタ鳴っているのがスピーカーから聞こえ、

「変更します。」

 オペレーターさんの声と共に、今まで撃っていた人形の板が地面に引っ込んだ。

 次に地面から上がってきたのは、私が使っているのと同じ様なロボットの形をしていた。なるほど、このロボットの色が赤なのか。

「次は、リアルなターゲットです。動き回るので撃ってください。」

 私に言い、次にオペレーターさんに

「回避行動は無し、近距離ランダム移動にセットしてください。」


 しばらくすると動き出す赤いロボット。

 右の親指でグリグリと合わせて、赤トリガーを引く!

 『ダッ!』と撃ち出された弾は、私の思っていたのとは違い、後の木に穴を開けた。

「あ、あれれ?」

 たて続けに撃ったが、木に穴を開けるか、空に穴を開けた。

 我ながら、変な声を出してしまったと思ったが、目の前で起きた事の方に関心が行っていた。


 狙ったのに当たらない? なんでだろう?

 うーん、何でだ?

 知らない間に、『考え中』になっていた…。


 モニターで、見ていた部長に横から副部長が

「止まりましたね。何かあったんでしょうか?」

 モニターを見ながら

「考えているんじゃありませんか?」

「そうなんですか?」

「たぶん、考えていますよ。だって…」

 ボリュームを上げる部長。

 沈黙し、耳を傾け聞いたのは、

「あれが、これで、ああなって、こうならない…」

 小さく口に出して言っていたのが、スピーカーから流れた。

「本当だ。」

 副部長と少し考え、

「教えないですか? 部長。」

「折角、考えているのに。教えるなんて野暮ってもんですよ副部長。考えて行動する、一番大切な事を日向さんは解っているですよ。」

 その言葉に、諭(さと)された様に、

「なるほど。私もまだまだですね。」


 うーん、何で当たらないんだろう。と、考えているうちに、ついに手を使って目の前でクネクネやってた。

 

 そして、導き出した答えは『動いているから』。

 狙った位置に弾が届く前にロボットが通り過ぎてしまうから、当たらないんだ。


 って、事は…。今度は少し前を狙ってぇ。『ダッ!』ありゃ前過ぎた。


 次はもう少し後ろを狙って。『ダッ!』後ろ過ぎた。

 難しいな、動いてる的は。


「日向さん。解ったようですね。」

 小窓に部長さんが映り話しかてきた、

「はい。動いているから動きに合わせるんですね。」

「そうです。」

 ちょっと部長さんの声が、嬉しそうに聞こえるのは気のせい?

「一つ教えるのを忘れていました。」

 副部長が、あれ? って顔をした。さっき部長は『教えるなんて野暮って』言われたから。

「動いているターゲットを撃つ時には…。」

 撃つ時にには…。ごくり。

「トリガーを引く時に『そこぉ!』とか『もらったぁ!』の魔法の呪文を唱えないと駄目なのですよ。」

「なるほど! そうだったんですね。」

「後は『当たれ!』とかもよく使いますよ。オリジナルで台(せり)…。」

と言いかけ、

「呪文を考えるのもありですよ。」

「なるほど、やってみます!」

 返事をした時には、部長さんの後ろでモニター見ていた全員がズッコケたらしい。

 しばらくして全員が、椅子などに掴まりようやく立ち上がったとか。


 部長さんからアドバイスをもらたし、次は当てるぞ!

 少し前を狙って…。

「そこ!」

 『ダッ!!』と、弾道がスローモーションの様に進んで、ターゲットのロボットに吸い込まれる様に当たる! って、感じ。

『ガッキューーン!』

「当たったぁぁぁぁぁ! 魔法の呪文の効果は凄いんですね!」

 信じてました。かなり長い事。それを知るのはずっと後でした。はい…。


「左の頭部バルカンも大体同じ感じですが、射程…」

と言いかけ、少し間を開け、

「弾の届く距離が短いけど、いっぱい撃てるって違いがあります。それに頭に装備されているので、相手の頭のカメラを直接狙ったりできます。」

 射程なんて日常会話じゃ使わないから、知らないと咄嗟に判断したみたい。私が知ったのも、まだ先の事だし。

 とりあえず左の青トリガーを引こうかと探る。

 あっ、青トリガーは人差し指よりも、中指の方がしっくりくる。

「引きっぱなしで、連続で撃てますよ。」

 試しに引きっぱなしにしてみた。

『ダラララララララララ!』

 いっぱい出た。ちょっと楽しい。


「ついにでに、ミサイル系の使い方もやってしましょうか。使い方は、ほぼ同じなので実際にやってみましょう。」

「はい。」

 ミサイルって、『ドババババ』っと撃つイメージだよね。

「ターゲットを合わせて、右の青トリガーで撃ってください。」

 少し前を狙って…。『ボゥ!』さっきより弾が遅い。んで、山なりに飛んで行く。

「次は、青トリガーを引いたままで、マーカーをターゲットに合わせて、赤トリガーを引いてください。」

 マーカーを合わせていると、○(丸)に漢字の十字が、○(丸)に、△(三角)に変わった。

「マーカーが変わりました。」

「じゃあ、青トリガー離して。」

 離すと同時にミサイルが『ボゥ!』って発射された。あれ? 今回は、山なりの軌道を描きながら曲がっている?


 あっ、当たった。「そこ!」とか言ってないのに、ミサイルって凄い。

「青トリガーを引いている間は複数の機体を同時にマーキングするマルチロックオンという使い方もできます。」

 マルチロックオン! なんだか、かっこいい響きだ。

「でも、ミサイルの曲がれる範囲とか、重いから数が持てないとか、誘爆と言って撃つ前のミサイルに弾が当たったら爆発することも…。色々と制約もありますが。」

 使い易いと思っていた武器だけど、使い易いだけに制約があるのか。奥が深い…。


「大体、射撃の基本はこんなところですね。」

 少しためて、

「ここからは、次の段階に入ります。」

 えっ、今までも頭パンクしそうなのに。ちょっと涙出た。

「と、言っても身構える必要はありません、やる事は同じでターゲットを撃つだけですから。」

 ちょっとだけ、安心と疑問。じゃあ、何をするの?

「ターゲットの移動パターンを距離無制限移動に。」

 オペレーターさんに指示を出すと、カタカタと聞こえ、

「変更終わりました。」

の合図。


「初めてください。」

 疑問を感じながら、狙いを付け……(グリグリと)られない!

 ターゲットが動き回って、物陰に入ったり、カメラに映らない場所へ行き、離れて行く。


 えっと…、えっと…。また、考え中になった。

 あっ、私が撃てる場所へ動けば良いんだ!

 気が付くまで少し時間がかかった。


 昨日の移動を思い出しながら、ターゲットを追いかけて…っと。止まって、グリグリ。

「そこだぁ!」

 あれ、当らない? 呪文唱えながら撃ったのに…。


 部長さんが言った次の段階の意味がはっきりと解った。

「これは、昨日やった移動と今日の射撃を同時にやらないといけないって事ですよね。」

「今の時点では正解です。」

 含みのある台詞が、返ってきた。


 『ビューン』と移動しながらグリグリと狙いを付けるが、全く思い通りにならない…。これは、流石に難しい。次の段階って、こんなに難しいのか…。

 操縦桿を動かしながら、グリグリを動かして狙いを付けるのは超難しい!


 考えながらやっていると

「日向さん。」

「はい。」

 凄い真剣な声…。

「考えながら、行動するのは素晴らしい事です。でも、大切なのは感じる事…。『考えるんじゃない、感じるんだ!』ですよ。」

 どっかで聞いたことあるフレーズだけど。納得の言葉だ。

「相手を視覚だけではなくて、五感全てを使い、第六感を駆使し…更には第七感、第八感まで使うのです。」

 第七感とか、第八感は聞いたこと無いけど…。部長さんが言うんだから、きっと、あるんだろう。


「第七感とか、第八感って…。あの漫画…。」

 小南が言いかけたのを

「しーっ! 目覚めるかもしれないでしょ。」

 部長が制した。

「白い機体に乗っていたエースパイロットも、第七感、第八感に目覚めていたに違いないですから。」

 得意げな部長。

「そんな設定ありましたっけ?」

 横で聞いていた美星が、割り込んだ。

「白い機体のエースパイロットの前世は、星座を模した神話の鎧を着て闘ってたじゃありませんか。」

「えっ?」

 誰ともなく、出た声が響く。部長は続けて、

「転生したから、声が同じなんですよ。」

「そこですかぁぁぁぁぁ! 声は一緒だけど、設定が違いますから。」

 意外と突っ込み体質なのか、美星は力強かった。

「異世界転生でしょ。異世界へ転生して、ロボットのパイロット! なんて素晴らしいのでしょう。」

 訪れた静寂。


 諦め、それが静寂の正体。


 そんな会話があったとは、露知らず私は必死にやってた。

「当たれぇぇぇぇぇ!」

って、言いながら。


 あっという間に下校の時間となった。まさか、時が飛んだとかじゃないはず…。たぶんだけど。

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