5.二日目欠席入浴中①

 入学二日目。俺は始業十分前には席につき、またグラウンドをぼーっと眺めていた。他の生徒たちも教室に入るとまずは自分の席につき、隣や後ろといった近場の人間と当たり障りの無い会話をしている。

 それは、見知らぬ環境に放り込まれた動物が「ここは安全だろうか? 危険な生物はいないだろうか?」と確認している様子に似ていると思う。今は居場所を確保するべき時なのだ。早く慣れた方が楽だから。


 そんな中、俺はどうしているかというと、ぶっちゃけ何もしていない。温い日射しの降り注ぐ窓際の席で、登校してくるやつらとかを、ただぼーっと眺めている。

 いつもそうなのだが、俺は新しいクラスになっても、自分から誰かに話しかけたりはしない。誰かが話しかけてくるのを待っている。人にはなにかしら共通点のある同属を見抜く力でもあるのか、そうしているとたいていなぜか気の合うヤツが話しかけてくるのだ。


 しかし、今回は少し違う展開になりそうだ。なぜなら、まだ誰も俺に話しかけてくれていないのだから。俺って結構人目を引くタイプだから、いつもならもうとっくに声をかけられていても不思議じゃない。

 まぁ、理由は分かっている。分かりたくはなかったけど、理解している。


「あ。八月一日(ホズミ)だ」


 さっき教室に入るなり、明らかに敵意のこもった女子の声がしたからだ。俺は聞こえなかったふりをして着席し、すぐに窓の外に目を向けた。


「あいつ、昨日のさ」

「あー。ひどかったよねー。あんなにおどおどしている無敵さんに『死ね』とかさ。おめーが死ねよって思ったー(笑)」


 それは俺への陰口だった。

 ちょっと席が離れているし、俺は窓の外を見ているから平気だとでも思ったんだろう。仲良くなりたての彼女たちは、期せずして得た格好の話題に花を咲かせている。それはもう、キャッキャウフフと俺のことをボロクソに言っていた。

 ちょっとプルプルときてじわっときたけど、素知らぬふりを決め込んで、さらにデビルイヤーを行使した。すると。


「なにあいつ? 初日から目立ちたがりすぎじゃね?」

「連れてくるのを口実に、昨日初めて会った女子の手握るとか。セクハラセクハラ。あいつのあだ名、『ハラスメン』にしようぜ」

「なにそれちょっとかっこいい(笑)。ウケル(爆)」


 あっちはあっちで、男子が俺を楽しげにいじり倒していやがった。

 なんだこれ? おかしいな、雨も降っていないのに、なんだか窓ガラスが滲んでいるぞ。見えるもの全てがぼやけているけど、教室の中にまで降り込んでんの?


 こうして俺の「友達なんていらねーぜ」という願いは容赦なく叶っていた。

 無敵さん、マジ神。願い事を伝えなくても全力で叶えてくれるとか、最高神天照大御神級の神通力だろ、これ。

 自分、『無敵』舐めててすみませんでした。ちょっとだけ緩めにしてください。さすがにこれは酷いです、無敵神様。俺は額をゴンと机にぶつけた。

 しかしまぁ、これはこれでいいとも言える。因果応報。現状は甘んじて受け入れるのが俺の主義だ。なぜなら、それが反撃への第一歩となることを、俺は嫌というほど知って来たのだから。


 それに。

 ポジティブに考えれば、客観的に見て、こんなの本当にコメディだ。笑える余地がある分、まだマシだ。

 中学の頃の俺は、そんなの失くしてしまっていた。


 あんなシリアス展開は、もうごめんなのだから――


 閑話休題。本日は午前の二時間で学校生活における心構えや校則、必修科目や選択科目についてのオリエンテーションが行われる予定だ。

 ちなみに昨日、留守先生が「明日はオリエンテーリングがありますからね」と言っていたが、それはスポーツだ。「入学早々、地図とコンパスを使ってのゲームをするわけですね、分かります」とは言えないので、誰も突っ込んだりはしなかったが。

 ともあれ、二日目ともなるとだいぶ緊張もほぐれてくる。初日はどこに行くにも手探りな感じだったが、一度分かってしまえばなんてことはない。下駄箱に教室、トイレと保健室。これだけ把握しておけば、とりあえずは十分だ。

 そして、特に親しい友人も必要ない。授業や校外活動などで良くある班分けや、ペアを作る時に困らない程度の“知り合い”だけいればいい。


 そう思っていたのに。


「おはよー、みんな。はいはいはい、席についてー。おしゃべりはやめー。って、みんな席についてるし、さっと話もやめちゃってるじゃなーい。静か過ぎて怖いじゃなーい。もー、みんなったら、大人しいんだからー」


 ぱんぱんぱんと手を叩いてお笑い芸人のように教室に登場したのは、アニメちっくな声も可愛らしい留守留美子先生だった。静かな教室が残念そうな留守先生は、どうやら担任という存在への憧れがあるらしい。朝の教室は賑やかでなければ寂しいようだ。静かにしているのに怒る先生なんて見たことないぞ、俺。


 なんか高校生ともなると、ぐっと大人になった気がするんだよ、先生。前は簡単に作れていた「友達」ってものが、やけに難しく思えてきてさ。「どうなれば友達って呼べるんだろ?」とか「自分が友達になりたいからって、向こうもそうだとは限らないよね」とか考えちゃって、ちょっと遠慮がちになったりしてくるんだよ。まぁ、留守先生だって通った道だと思うけど。うわぁ。我ながらジジくせぇ。


 あとは、ま、特に、この高校に来るようなやつらは、頭でっかちな傾向が強いから、考え出すと、はまっちゃうんだよな。俺も含めて、だけど。


「さて。今日は昨日も言っていたとおり、オリエンテーリングをしまーす」


 留守先生は、出欠も取らずに堂々と間違った宣言をした。相撲で言えば勇み足。押しているのに負けてしまうという、全く残念な決まり手だ。いかにも留守先生らしい負け方である。今日という日も、留守先生はもう負けていると俺は思った。また校長室に連行されそうな予感がする。


「くす」

「ん?」


 微かに聞こえた含み笑いは、窓際最前列に座る阿久戸志連のものだった。俺の席の列の一番前だ。あいつの名前だけは、なぜかもう記憶した。今までに会ったことがないタイプだからだろうか?


「でもー、その前にー、」留守先生は教卓にばんと手を置き、「席替えをしまーす」と言い放った。

「席替えって。先生、まだ二日目なんですけど。今番号順じゃなくなったら、クラスメイトの顔と名前を一致させるのに余計な時間がかかりそうなんですけど」


 真ん中の一番前の座席で、挙手と同時に座ったままそう言ったのは、黒縁メガネの女の子だった。もちろん名前など覚えていないので、彼女が誰だかは分からない。三つ編みにメガネという彼女のいでたちは、良くある委員長という虚構を見事に具現化している。

 え? 古い? いまどき、そんな委員長はいない? だろ? だから実際ここにいるこの子が、俺には凄く貴重に思えるんだよね。一度は会ってみたかったって感じ。今日は多分、クラス委員長も決めるだろう。これはこの子で決まりだな。間違いない。この子は、委員長になるために生まれてきたに違いない。それ以外の生き方は許さないとまで言いたい。


「いい意見だわ、黒野さん。でもね。先生が、その問題を無視するとでも思った?」


 留守先生はふふんと余裕綽々に鼻で笑った。感じわるっ。ヘタすると俺たち生徒よりも幼く見えるだけに、余計に。


「と、いいますと?」


 黒野という名前らしい委員長(仮)が、鹿爪らしい顔で訊き返す。


「つまりは、『部分的席替え』ってことよ。ある特定の席順だけを、先生が恣意的に変更します」

「部分、的?」


 嫌な予感がした。先生の視線が、言いながら俺の方に向いたからだ。俺は慌てて目を逸らす。なんなら口笛とかも吹いてみる。「俺、関係ありません」と分かりやすく主張してやる。


「せんせー。その前に、出欠取ってみませんかー? 一人来てませんけど、気付いてますー?」

「え? うそ? いきなり欠席者?」


 真ん中後ろあたりから、なんとも明るい声で欠席者の存在を示唆するやつがいる。爽やかにして朗らか。こんな微妙に嫌味混じりな指摘にも関わらず、なんの悪意も感じない。

 ところで誰が休んでるんだ? こんな日に休んだら、この学校での勝手を理解するのが遅れるはずだ。悪目立ちもするだろうし、少しくらい体調不良でも出てきた方がいいことが分からないようなバカなのか?

 そう思い空席を探してみる。と、それはすぐに見つかった。廊下側の列から二番目、前からも二番目。そこだけがぽっかりと空いている。

 あの席って、確か……。嫌な予感がいや増した。嫌が二つでいやいやだ。もう本当に嫌だった。いないならその方がいいかなー、とか一瞬思ったが、いてもいなくても俺を不安にさせるやつだ。なんなの、あいつ? 俺の何になってんの?


「あらー。来ていないのって、無敵さんなのねー。やだ、先生、困っちゃう」


 留守先生が両手を頬に当てて、手入れの行き届いた細い眉を下げた。きれいな眉だなー。メイクもナチュラルだし、この先生ってホントいい。年の差が十以内だったら、結婚を前提に付き合ってもいいレベル。向こうは良くないかもだけど。年下好きかなぁ、留守先生。


「教えてくれてありがとう、七谷さん」


 先生は両手を前に揃えて、朗らか女子にぺこりと頭を下げた。その女子を振り返って確認する。へぇ。七谷っていうのか、あいつ。見た途端、強烈にインプットされた彼女の名前。それにはもちろん理由があった。


「どういたしましてー。えへへ」


 照れたように頭をかく七谷は、なんというか派手だった。ゆるふわカールのかかった長い茶髪に、カラーコンタクトでも入れているのか、明らかに青い瞳。「お前はハーフなのかよ」と突っ込みたくなる不自然さだ。ブラウスのボタンは二つばかり外されて、胸の谷間が覗いている。それは緩められたネクタイのせいで、ちらちらと見え隠れしているのだ。

 座っているから見えないけど、多分スカートも「それ、はく意味あんの? それで隠しているつもりなの? もうはいてなくてもいいんじゃない? むしろはいてる方がエロくない?」ってくらいに短いはずだ。あれでスカートだけ足首まであったりしたら笑っちまう。

 ……つーか、昨日あんなヤツいたっけ? 一回見たら絶対忘れられそうにないんだが。


「それにしても先生、よく菜々美のこと分かりましたねー。菜々美、昨日とは全然違うはずなのに」


 調子に乗ってしまったのか、七谷は気軽に話しかけ始めた。自分のこと菜々美とか言うのやめろよ、バカっぽいから。いや、それをやめたところで格好がもうアレだけど。


「うふふ。どんなに姿が変わっても、先生は生徒のことを見失ったりはしませんからね」


 留守先生は「いいこと言ったった」って感じで得意顔。その顔のせいで、本当にいいことを言ったと思うのに台無しだった。


「うわー。嬉しいー。菜々美、いい先生が担任で良かったぁー」


 しかし、七谷は素直に受け取っているようだ。こんなに派手であっても妙に印象良く見えるのは、この素直さが雰囲気としてにじみ出ているからなのだろうか。ちょっと不思議なヤツではある。

 まぁ、顔がアイドル並みに可愛いしな。アイドルとかなら、これくらいの派手さは普通だろ。問題は、別にアイドルとかじゃないとこだけど。


「先生。無敵さんがいないと困るというのは、その席替えに関係があるからでしょうか?」


 留守先生と七谷のほのぼの空間を、アイスピックのような言葉を投げつけ破壊したのは黒野だった。なんで不機嫌になってんの、こいつ? 気難しそうなヤツだなぁ。


「ああ、そうそう。実はね、昨日、無敵さんがあんな風になったでしょ? またあんな事があると困るから、先生、《無敵さんシフト》を考えてきたんだけど……」


 黒野の質問でぽんと手を叩いた留守先生は、黒板にしゃー、しゃー、と線を引き始めた。て、無敵さんシフト? なにそれ? 完全に嫌な予感しかしないんだが。


「こういう席に替えたいと思いますので、みなさん協力してくださいね」


 黒板からくるりと向き直った留守先生は、にっこりとほほ笑んだ。


「って、なんだそりゃあー!」


 フリーハンドで描かれたとは思えないほど精巧に描かれた黒板の座席図を見て、俺は席を立っていた。思わず叫んじゃったりもしていた。

 俺の席は変わらない。変ったのは俺の周りだ。

 窓際真ん中あたりの俺の席の隣には、件(くだん)の無敵さんがやってくる。無敵さんの後ろには、今名前を覚えたばかりの七谷菜々美。前には黒野。俺の反対側、無敵さんの右隣には、後藤田晃司という名前が書かれている。例によって力強い毛書体で。


「あら? どうしたの、ホズミくん?」

「どうしたの、じゃありません! どうして俺の隣に無敵さんが来るんですかっ!?」

「え? だって、昨日も一番に無敵さんを助けに行ってくれたじゃない?」

「それがどうしたっていうんです? 誰も動かなかった、いや、動けなかったから俺が行ったまでですよ!」

「でしょ? だからよ。あんな突発的な事態にも、臨機応変、冷静に対応出来る人じゃないと、無敵さんを任せられないんじゃないかって、先生は思ったの」

「ままま、任せるっ……? って、それって一体っ……?」


 くらくらと目が眩む。脳がぐるぐると渦巻いている。意味が分かるだけにたまらない。納得出来てしまうだけに信じたくない。

 あんたは無敵さんの母親か? 俺は結婚を申し込みに行った無敵さんの彼氏かっ? 「お嬢さんをください」はおろか、「任せて欲しい」とも! 一言も! 言って! ないぞぉ!

 その前に、恋に落ちた記憶もない。順番すっ飛びすぎだろ、これ。


「任されても困りますっ! 俺には面倒見切れません! 責任なんか取れませんよ!」


 昨日も思ったけど、あいつ、まるで「自分の四方にうっかり爆弾置いて自爆するボンバーマン」みたいなヤツなんだぞ。救出不可能だから、あれ!

 ところで「ボンバーマン」とは迷路のような所で時限爆弾を武器にモンスターと戦う、昔懐かしいレトロゲームである。初心者は、退路に爆弾を置いてしまうイージーミスを、焦りから連発するのがこのゲームだ。パズル要素が強いので、かなり頭を使わされる。

 俺、古いゲームのあのチープさが好きなんだよね。単純だけど奥が深くて、ちょっとした空き時間なんかに重宝するんだ。


「大丈夫。もしもの時は、先生も一緒よ」

「えっ? せ、先生、も……? いいい、一緒……」


 え? え? これって一体どういう意味? もしもの時は、どうなんの? 一緒に現実から逃げ出して、二人で遠い街に住み、新生活を始めちゃったりするのかな?

 それなら、「もしも」がむしろ待ち遠しい! カモン! IFの世界!


「へぇー。菜々美も《無敵さん係》かぁー。なんだか結構おもしろそー」


 後ろでは、七谷がけらけらと笑っている。通常のクラスには、てゆーか、無敵さんがいなければ存在し得ない変な係も、七谷の中では出来あがっているようだ。

 そんな係を作っていいなら、俺は是非、《留守先生係》になりたい。もし俺がその係に任命された暁には、教室移動の際におんぶしたり抱っこしたり、なんなら馬にでもなる。で、ご飯を「あーん」とか言って食べさせてあげたりもする。気分がすぐれない時には、保健室で一緒に添い寝とかもしなければ。《留守先生係》の任務は重大だ。これは俺にしか出来ないだろ。

 では、やはりこの《無敵さん係》は、なんとしても固辞しなければ。《留守先生係》に比べ、《無敵さん係》はあまりにも憂鬱だ。鬱病とか、絶対なる。これだけは俺には出来ない。


「面白い? お前、まだ無敵さんと話してないだろ? 知らないと思うから言っておいてやるが、あいつの面倒くささは、バックラッシュして絡まったベイトリールの釣り糸をほどくくらいじゃ済まないぞ」


 この係を消滅させる。そう決めた俺は、まずは七谷の切り崩しに取りかかった。みんなが気乗りしないなら、先生も無理強いはするまい。数は力。みんなで断ればこんな横暴は実現しないはずだ!

 というわけで、俺は七谷へと振り返り、無敵さんの面倒さを、釣りに例えて分かりやすく説明した。


 小学生の頃、釣りにはまっていた俺は、買ったばかりの新しいベイトリールが投げる度にバックラッシュ(リールの後ろから糸がモジャモジャと飛び出す状態)して、泣いた記憶がある。

 朝五時から出かけたのに、結局夕方の五時まで糸をほどく作業で終わっちまったからな。ルアーを一度も池に放れないまま帰ったあの日の悔しさを、俺は一生忘れない。


「なにそれ? 菜々美、釣りのことなんて知らないし。まぁいいじゃん、オトっちゃん。いざとなったら、ぶん殴って気絶させたらいいんだよ」


 なにその短絡的かつ乱暴で頭の悪い解決法。これも七谷は知らないのかもだけど、脳みそって考えるためにあるんだぜ。


「オトっちゃんて誰だよ? 俺は於菟(オト)だ。お前の親父になった覚えはねぇ」

「菜々美だって、オトっちゃんをおとーさんにした覚えはないよー。でも、同じ年で、血の繋がっていないお父さん、かー。もしもそんな人と同居とかしちゃったら、いけない生活始まりそー。きゃははははっ。やば。マジで恥ずかしくなってきた」

「……なにおかしな妄想してんだ、お前は……」


 なんだこいつ。なんかどうもおかしいぞ。なんなんだ、この感じ? なんか、微妙に話が噛み合っていないような気がするが。こいつ、多分だけど、思考ルーチン的な構造が、根本的に俺とは違うんじゃないだろうか? 例えるならば、七谷がiosで俺がAndroid、みたいな。例え同じ結論を導き出しても、途中の演算が全く別物、みたいな。……俺、こいつ得意じゃないタイプだなぁ。


「先生。なぜ、私もなのですか? この人選の根拠を提示してください」


 今度は黒野が噛みついた。冷静なのが逆に怖い。つい、とメガネのずれを直すその手が、なんか怒りに震えているっぽい気がした。


「はーい。ホズミくんと同様、黒野さんを選んだことにも、もちろん根拠がありますよー」


 留守先生は、ぱん、と手を合わせると、


「無敵さんの四方を囲む子たちは、特にお友達を大事にするの。先生は、それを知っているのです♪」


 そう言って、無邪気に笑って見せたのだった。


「は?」


 俺も七谷も黒野も、間抜けな息を吐き出していた。ん? そういや、後藤田ってやつは? それらしい反応を示している人間はいないようだが?

 しっかし、何言ってんの、この人? なんでそんなことが分かるんだ? 俺とか、友達なんてもういらねーとか思ってる人なんだぞ。

 それに、七谷。

 こいつだって、見た目かなり軽そうだ。見かけで判断するのは良くないと思うけど、「キミのためになら、死んだっていい。キミは、菜々美が絶対に守る。ここは、絶対に通さない!」とか言って友達の為に体張るとかはまずないだろ。俺だってそこまでしねーし。

 ……前は、そんなこともあった、けど。


 あと、黒野。

 下の名前は知らないし知りたくもないし知る必要もないんだけど、こいつだってそんな風には到底見えない。

 どっちかっつーと「さぁ、私を守りなさい。あなたたちの代わりなどいくらでもいるけれど、私の代わりは誰にも務まらないのだから」とか言って、人を盾に使いそうだ。

 それが、俺の二人に対する第一印象だった。


「さて。では、ホズミくん」

「は? はい」


 呆然としていた俺は、留守先生にびしっと指差されていた。そして。


「《無敵さん係》として、最初のお仕事を言い渡します。無敵さんの様子を確認し、大丈夫そうだと思ったら、学校に連れてくること。張り切って頑張って来てくださいね」

「はぁっ!?」


 留守先生は、教師としてはあるまじき、あり得ない指示を俺に下したのだった。



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