Independence from in the World

藤井ひろゆき

第一部

1-1

 ねえ、知ってる?

 彼女はいつもそう言って、白くて細いガラス細工のような指をわたしの指に絡めながら、冷たい黒目の奥に抑えきれない疼きを押し殺していた。

 彼女のことを何と表現したらいいのか、それは簡単なようで難しい。

 多くの人は彼女のことを、天才とか、超人とか、あるいは変わり者とか、そんな風に言い並べて評価するみたい。

 実際、彼女はとても頭が良くて、学校では常にトップの成績を取っていた。

 それはもうぶっちぎりってやつで、わたしの記憶にある限り、期末テストごとに廊下に貼りだされる成績優秀者のトップに彼女の名前が載らないことはなかった。彼女は他の人とは頭のつくりが違うんだ。彼女は特別なんだ。……その名前を見るたびに、たぶん、他のみんなはそう思っていたに違いない。

 

 彼女は学校で一番賢い女の子.。

 彼女はぼくやわたしとは隔絶した頭脳の持ち主で、宇宙人みたいな存在なんだ。

 

 そう宇宙人。……良くも悪くも彼女の思考は常人には理解できないものが多くて、その行動もまた傍から見れば奇怪に映るものが多かった。だから、そういう理由も含めてみんなは彼女を特別視していた。

 けれど、わたしの目から見た彼女の印象は他の人とはちょっと違っている。

 彼女はただ単にとても欲望に忠実な人間なんだ。

 いつだって、何かに飢えてる女の子。わたしの親友。……彼女はたぶん、生まれたその時からあらゆる知識に飢え、娯楽に飢え、思想に飢え、愛に飢えていた。

 だから、彼女の行動原理はいつだって単純だった。

 何かを知らないことがたまらなく苦痛だから本を読み漁り、公園がなくて退屈だから自作のブランコを作り、現状の社会に不満があるから新たな思想を生み出し、優しく頭を撫でてほしいからそれらの行動を自慢げにわたしに話す。

 そんな感じで。

 みんなが天才と呼んで、少し変わっているから、ちょっと近づき難いと思っている彼女は、わたしにとっては可愛らしい──なんて言うか、とても聡明なんだけどちょっとほっておけない危うさがある、姉妹みたいな存在だった。

 うん、そう。……

 彼女は──ミリア・ブラッドベリはわたしにとって大切な存在だった。それは間違いのない事実。

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