めるえむ2018

第1話

バッテリー

キャッチャーとピッチャーは夫婦みたいなもの?

みたいはいい

でも夫婦だったら?


人気商売

だから誰にも知られちゃいけない

私は我慢する

我慢 我慢

ひたすら我慢

顔はきれいだけど

私に指一本触れない夫

年俸二億

キャッチャー二億四千万

あの人の方が価値が高い


耐えられなくなって

友達に


話した



瞬く間に広まって




キャッチャーの母が自殺した

キャッチャーは野球をやめていずこかへ去った


母は野球人としての僕を愛で、同性愛者としての僕を否定したのだと思う


夫宛の手紙にはそうあった

君とは離婚しない

それが俺から君への罰だ

夫は言い

そのまま野球を続けたが、違うキャッチャーには、夫の球は速すぎて捕れない

球団を3つ移って、引退した

今は店舗なしのスポーツショップを営んでいる


ガラガラの電車で、隣に中年の男性が座った

ふた駅黙っていたその人は不意に口を切った

彼らはすごいバッテリーだった

あんたの好悪で、あたら二つの才能が潰された

そのことを、みんな覚えてますよ

ものすごく惜しんでる

一瞬も忘れないようにね


目を上げると

その席にはもう誰もいなかった



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

めるえむ2018 @meruem2018

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る