第14話 ボーンイーター

僕らが転移の魔法でやってきたのは、支配権がギリギリ届く地下五階だった。

王子は兵隊を連れてきていた。訓練された兵士達なら、苦労することなくここまでたどり着けるだろう。僕らは追いつかれないように、先へと進みつづけなければならなくなった。


『いずれこうなるだろうとは思ってマシタ。なのでやはり、あの王女様は魔力に変えておくべきだったのデスよ。そうすればそこそこのモンスターを喚べたでショウに』


ピセルはあの王女様が苦手なようだ。特に好きでもない相手に抱きしめられれば、誰だって嫌だろうけど。


「あんな可愛い女の子に非道いことしたらダメだよ」


『私だって可愛いデスよ』


「もちろん分かってるよ。ピセルも可愛い。でも可愛いは正義だから、正義のピセルは悪いことしちゃいダメだからね」


『やはり、正義の敵は別な正義なのデスね』


ぐぬぬ、と、うなるピセルを連れて、下へと続く階段を降りる。ここから先は僕らの支配圏外だ。


『ところで、お供のモンスターは何にするかそろそろ決めまシタか?私の魔法で倒してもいいデスが、できれば魔力の放出は抑えたいところデス』


「それなんだけど、王子様と距離を離す方が先かなって思うんだ」


マップを確認すれば、王子様ご一行は一階を隅々まで探索しているようだ。安全確保と状況確認を優先しているのだろう。僕らは今のうちにどんどん進んでしまいたい。


『なるほど、魔力を貯めて、後で強力なモンスターを喚ぶつもりデスね。それもアリだと思いマスよ』


「うん、できればそうしたいんだけど、ピセルって索敵はできる?」


『本職ではありませんが、完璧な私はそのくらい簡単にできマスよ』


「ならこの階のモンスターはどう?上と同じかな」


『少々お待ちくだサイ』


そう言ってウィンドウを展開し、探知魔法を発動した。


『ふむふむ。どうやらレッサースケルトンの他に、ボーンスネイクもいるようデスね。スケルトンで油断させたところに、気配の小さいボーンスネイクで奇襲をかける算段なのデショう』


「やっぱり骨ばっかりってことは、ダンジョンとしての本格起動はまだまだみたいだね。ならアレで楽ができそうだ」


モンスターショップを開いて、目的のページを開く。


『そんな小物をわざわざ喚び出すのデスか?まともな戦力になるとはとうてい思えマセンが』


「だから、ボスじゃなくて道中の負担を減らすんだって。ボスはピセルの魔法であっさり片付くだろうけど、雑魚でいちいち立ち止まるのもイヤだからね」


ウィンドウに映し出されているのは、大きな歯を持ったネズミのモンスター。骨喰いネズミ【ボーンイーター】。特性は、骨特攻・悪食・多産。

ピセルの言うとおり雑魚中の雑魚だけど、スケルトン系にはとてつよだろう。


お値段もお手頃どころか大特価だ。ダース単位で喚んでも10Mもかからない。


『ネズミ系は増え方が異常デス。しかも弱いので、私たちは絶対に使役しないデスよ』


女の子はリアルなネズミはイヤかもしれないけど、すぐにダンジョンに放つから見える時間は一瞬だ。近くで連れ歩くわけじゃないから、ちょっとだけ我慢してもらおう。


「とりあえず、余計なケガと時間を減らせればいいんだよ。よし、召還だ!」


決定ボタンを押すと、チワワくらいの大きなネズミの集団が、魔方陣いっぱいにぎゅうぎゅうに詰め込まれて出てきた。

魔方陣が消えると、ネズミ達はあふれた水が流れるように、色んな方向へ散っていった。

生き物が水みたいに移動するなんて思いもしなかったので、気持ち悪さよりも驚きの方が強かった。


「ええと、とりあえずあいつらの動きは見えるかな」


マップを開くと、探索済みのエリアがすごい勢いで広がっていた。ネズミの一匹一匹が歩いた範囲が、リアルタイムで書き込まれていく。

これは予想もしてなかった。


『ナルホド。ボーンイーターはセンパイの部下なので、情報が反映されるのは当然デスね。さすがセンパイデス』


「だ、だろ?これで寄り道せずに先へ進めるぞ。さあ行こう」


都合が良いので、これでいいことにしておこう。








六階は、五階の倍以上に広いようだったが、ボーンイーターのネズ海戦術によって下への階段がすぐに見つかった。

降りた先の七階でも追加でボーンイーターを喚び出し、マップをどんどん埋めさせる。

狙ったとおり、スケルトンは大量のボーンイーターによって、現れる端から囓られていく。とても順調のようだ。


「そういえば、ダンジョンなんだから宝箱とかはないのかな?宝箱じゃなくても、骨の下に埋まってたりとかさ」


『残念ですが、ここのダンジョンでは期待できマセン。宝箱とはダンジョンに人を招き入れるためのエサなので。むしろ今はセンパイが用意する側デス』


言われてみればその通りだ。

悲しいけれど、宝箱はあきらめよう。


『そうデス、あの王子に宝箱を送りつけてはどうでしょうカ』


「その宝箱って、中身は罠?」


『以心伝心デスね。連れてる兵士の数が多いので、拡散するモノなら魔力の大量獲得が狙えるかもしれマセンよ』


「シロウトならともかく、訓練された兵士たちばかりだろ。対処されるだろうし、ケガしたとしても、交代して治療されると思うよ」


王子一行の進みは遅いし、妨害はまだ必要はないだろう。


ボーンイーターは敵を見つければ集団で襲いかかってあっという間に倒して、また散っていく。攻撃されても小さいから当たりにくいし、すぐに狙われたのと別のが襲いかかっていくのでかなり生き延びている。

道中はボーンイーターだけで問題なさそうだ。







戦闘らしい戦闘もなく七階も突破し、八階に降りる。

ここから通路に罠が出てくるようになったが、だいたいがボーンイーターが踏んで発見し、危ないモノは無力化させてくれるので安全に進めた。

人にだけ反応するものもあったが、スケルトンが人型なので、ダメージを受けてるスケルトンの周囲だけ気をつけていれば僕らがかかることはなかった。


ここまでボス部屋はない。

やっぱり序盤のボス二連続がそうとうコストを喰っているんだろう。歩いてるだけなのはヒマだったので、ダンジョン管理メニューから地下二階のボス部屋を消しておいた。これのおかげで維持コストは抑えられた。

いくらちょっと強いスケルトンコングとはいえ、兵士の集団相手じゃ分が悪いだろう。

倒されるのが確定してるなら、喚び出すだけ魔力の無駄だ。

なんとかして時間を稼いで、僕らが先に進むためのモンスターを喚び出す魔力を貯めさせてもらおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る