ゲーマーファンタジー~天使な彼女とダンジョン攻略~
天坂 クリオ
第1話 始まりは告白から
唐突に、疑問が浮かんだ。高校在学中に異性に「大事な話があるんです」と声をかけられる確率は、どのくらいあるんだろうか?
しかもその相手が金髪•ツインテ•黒サイハイという、僕の理想を具現化したかのような美少女である可能性は、おそらく微粒子レベル以下であっても存在が疑われるだろう。
つまり何が言いたいかと言うと、僕こと森谷影人(もりやかげと)は今、人生の重大な岐路に立っている。
彼女と会ったのは、たぶん今日が初めてではないだろうか?僕は全く見覚えがなかったが、それでも向こうは僕のことをよく知っていたらしい。
ピセルと名乗ったその後輩は、自己紹介もほどほどに話を始めた。
「先輩って、ゲームが得意なんですよネ?世界を10桁以上救っているとか聞きマシタ!」
なんて目を輝かせて言われては、ゲーマーとしては得意に成らざるを得ない。
「まあ、最近のゲームはヌルいのばっかりだからね。心を折ってくるくらいのゲームじゃないと、僕にとっては歯ごたえないかな?まあそんなゲームであっても僕にかかれば楽勝なんだけどね?」
「さすがデスネ!噂通りの方デス」
小柄な体を寄せるようにして見上げてくる美少女に、僕は自分でも不思議に思えるほど落ち着いた対応ができていた。
アレだ。彼女の可愛さが非現実的すぎて、むしろゲームの画面を見ている気分になっているのだ。ゲームの中は、現実よりも可愛い美少女で溢れている。しかし、目の前の彼女は、それに勝るとも劣らないほどの可愛さであり、つまり彼女は別次元の生き物であると言っても過言ではないだろう。ついに二次元世界の住人が三次元に出てきたのだ。
「私、どうしても先輩に頼みたい事があるんデス。これから、私の家に来てもらっていいデスカ?」
なんというご都合主義的な超展開。ヘタレな僕が状況を把握しきれずに言葉を探している間に、手を取られて主導権を取られて、気づけば一緒に帰ることになっていた。
そんなこともあって、僕はすれ違う人が振り返るほどの美少女と並んで話ながら下校していた。しかもいつの間にか腕を組まれてすがりつかれて、胸が当たってるよ当ててるの?状態。振りほどけるわけがない。
僕は自分がカッコイイなどとは思っていない。色黒ではあるが、むしろ内蔵が悪いんじゃないかと心配される。健康だとアピールしても、ヒョロくて頼りないとよく言われている人間だ。身長だって前から数えた方が早いくらいだし、ハッキリ言って体力に自信はない。
他人に誇れる事と言えば、たくさんゲームをクリアしてるという事ぐらいだ。
別に、反射神経がすごいとか、駆け引きが上手いとかは関係ない。僕が得意とするのは、挫けぬ心と綿密な情報収集。それとちょっとした閃きぐらいなものだ。他人よりも少しだけ、ゲームについて理解していると思っている。ただそれだけ。
だからこそ、僕は今の状況が夢ではないかとか疑っている。もしかしたら罠という可能性もあるけれど、今のところそんな気配はない。いい夢を見ているような気分なので、全部嘘だったと言われても、笑って許せるだろう。
とりあえずコッソリ頬をつねってみるが、しっかり痛い。
つまりこれは現実。神様ありがとうございます。例え次の瞬間この世界から消えることになっても、僕は全く後悔しません。
「やだもう、先輩ったら気が早いデスヨ」
「え?ごめん。僕なんか変なこと言った?」
「んフフ、内緒デス」
ピセルはそう言って、イタズラっぽい笑顔になった。僕は、5秒くらい呼吸が止まった。
「さあ着きましたよ。入ってくだサイ」
案内されたそこは、年代物の教会だった。色あせた白い外観に、古びた木製の扉。神聖さよりも古臭さの方が強く感じてしまう。
たしかここは元は怪しい新興宗教の教会で、数年前にあっけなく潰れて以来ずっと空き家だったはずだ。
こういう建物が地元にあると、わりと良くない噂があったりする。
曰く、元信者が浮浪者同然になって住み着いているだとか、幽霊が徘徊しているのを見ただとか。
見た目がけっこう本格的な教会だっただけに、不気味な説得力を持ってささやかれていた。
そんな建物を前にして、僕は思わず生つばを飲み込んだ。
その時、僕の不安をあおるように急に冷たい風が吹いてきた。それは敷地で伸び放題になっている雑草を、中に何かが潜んでいるかのようにワサワサと揺らした。
空を見上げればいつの間にか黒い雲がたれこめていて、薄暗い日差しが不気味な雰囲気をいや増している。
僕はもしかして、なんか大変なことに巻き込まれかけているんじゃないだろうか。
彼女は怪しい宗教の使いか何かで、僕は哀れなイケニエにされるんじゃないだろうか。
不意に湧き上がってくる妄想をなんとか抑えつける。
だってそんなバカなこと、あるわけないじゃないか。こんなカワイイ女の子が、僕を騙すはずがない。
そんな不安がバレたのか、握り合っている手を両手で包みこまれた。
「センパイ、あの、イヤだったら無理しなくてもいいデスヨ。元から私の仕事デスし」
僕を気遣う言葉に、勇気がわきあがってくるのを感じる。
こんなカワイイ子に今まで心配されたことがあっただろうか?いや、ない!
こんなカワイイ子をひとりで放っておけるだろうか?いや、できない!
こんなカワイイ子が悪人なわけあるか?いや、絶対にない!
「大丈夫だよ。ちょっと行って、ゲームやるだけだろ?なにも問題ないさ」
「ありがとうございマス。正直に言うと、私だけだと心細かったんデス」
ホッとしたように笑うピセルを見ると、それだけでもう他に何もいらない気がしてくる。
精いっぱいのドヤ顔をしたつもりだけど、頬が引きつっていたのはバレていないだろうか。そもそも最近こんなに会話をしていなかったし、明日になったら顔面が筋肉痛を起こしてるんじゃないだろうか。
鍵は空いていたようで、彼女は簡単に扉を開いたが、中の空気はすごくホコリっぽかった。
「ゴメンなさいデス。せめて空気の入れ替えだけでもしとくべきでシタ」
「いや、別に大丈夫だから気にしないでよ」
ちょっとだけやせ我慢しながら、教会の中へ入る。宙を舞うホコリが光に照らされて、キラキラと光っている様は神秘的でもある。
入り口から真っ直ぐ道があり、その両側に長椅子がいくつも並んでいる。ゲームでよく見た造りだ。現実でもこれが普通なんだろうか。
ピセルは目の前に伸びる、祭壇へと続く道をゆっくり歩いている。
「いきなりこんな所へ連れて来てしまってゴメンナサイ。びっくりさせてしまいましたよネ?」
「大丈夫だよ、問題ない。どうせ家に帰ってもヒマだったし」
家にはやり込み中のゲームがいくつも待っていたが、今を逃したら幸せな時間が訪れることはもうない。断言できる。
なので今日は絶対にヒマでなければならないのだ。
「そう言ってもらえると安心します。先輩っていい人デスネ」
いい人。その評価は男にとってはそれほどいいものではないはずだが、ピセルに言われると何故だかスゴく嬉しくなった。
ピセルは祭壇への道の真ん中で止まると、真面目な顔になって話を始めた。
「先輩は、ダンジョンを運営するゲームって、やったことありマスカ?」
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