これで永年、資材術
たかなん
第1話 なんだ、ここは
■1
目を覚ました時にゲームのユーザーインターフェースが目の前に有ったらどう反応すればいいのか。
一般的な話は分からないが、俺は固まってしまった。
そして、混乱している最中に、
「手を上げて」
とか言われても、
「うぇい」
と情けない声を出したとしても、俺には非はない、よな?
■2
目を開けただけで、混乱することになるとは思わなかった。
有名な恐竜ハンティングゲームのような、昔ながらのMMOのような、なんとも言い難い表示。
神は細部に宿るのか、HPとMPは分かりやすく色分けされ、ショートカットの使い方は頭でおおよその位置を意識するだけで使える(気がする)し、一度見た範囲はオートマッピングされて視野が増えることを分からせる。
快適だ。インターフェースはこうでなくちゃならない。独自の表示方法とかは要らないのだ。それより戦闘周りとか生産周りのシステムを個性的にしてくれ。あと、ゴールが明確で、適切に実績とかトロフィーで褒めてくれて、少し難しいクエストが有ればそれだけでいい。とても簡単な要求だ。
「なのに、見た目ばっかり個性的でシステム没個性、過剰なやり込み、フルコンプしか実績解除がないとか。そういうのは無しにして欲しいもんだ」
切実である。特に今年は一月から三月まで、面白そうだと思ったゲームは大体マンネリ化していた。体験版で、ストーリーが良さそうなのをピックアップしたのに、実はシステムが全て同じだった時の絶望感がヤバイ。
「いや、無駄に金使ってご飯の質がヤバイなぁ……あぁ、
寝ていると布団に潜り込んでくる柴犬の太郎丸に声を掛ける。飯の話には人一倍耳ざといのだ、フォローしておかないとメッチャぶちゃいくな顔してくるのだ。防がねば。
「なぁ、太郎丸。しっかり飼い主してやるから心配しなくて良いんだぞ……だから、出て来てみない?」
もう一度呼びかけてみるが、無反応である。
はははっ、それはそうか。太郎丸はおそらく俺のベッドで今も寝ていることだろう。
だから草原で、布団もなしに寝てた俺の声には反応できるまい。はははっ……。
「……えっ、寝相? 歩いてここまで?」
いや待て。慌てず周辺を見渡そう。
意図して遠くまで見てみる。視界の右上に表示されているMAPの一部が、雲に覆われた表示だった部分が晴れていく。とはいえ、明るくはならない。少しの薄暗さを残し、地形だけは把握出来るMAPに変わる。
あぁ、実際に行かないと
良くある仕様だな。
「ではなく」
今は草原に寝ていた体を起こし、そのまま前を見ただけ。そっちには草原と、遠くに山があるだけだったが、後ろを見てみれば、
「木しか無いし、林か森か」
先を見通すための光量を遮る巨木が列を成している。
MAPには表示部分一杯に森の簡略図が現れていった。どうも見える範囲では森が途切れている事はないようだった。
さて問題。東京の東側の川近くという、人が開発しまくった場所に住んでいた俺は、どうして草原で寝て、建物で遮られないで地平線の向こうに山が見え、真後ろは森なんて場所に居るのでしょう。
答えは簡単。
「夢であってくれ! おやすみ!!」
体を草原に横たえる。勢いが強過ぎて背中が痛い。草程度ではクッションにもならない。
というか、今のぶつけた痛みだけではない。地面の硬さに体がやられていて、体をひねると背骨の両脇が
枕が変わると寝れない俺にとってはリラックス出来ないし背中は痛いしで睡眠になるはずもない。が、それは別。無理やり目を閉じて夢の世界に移動しようとする。
すると、HPバーやMAPは消えた。いや、あったら集中出来ないし、これでいい。
良かったなぁなんて思っていたタイミングで、暗闇に沈んだ視界、その右下からポップアップしてくる文字。
『HP回復ポーションを三つ獲得しました』
『MP回復ポーションを五つ獲得しました』
『粗布を獲得しました」
『赤褐色の杖を獲得しました』
『スタンダードブーツを獲得しました』
おっ、優秀なインターフェースだな。一つだけ獲得した場合には個数表示がないぞ……って、
「うぜぇ!!」
思わず跳ね起きる。
目を開くと同時に消えていたインターフェースが表示されるが、さっきから変化はない。ただ、今でも右下からは延々とポップアップが表示され、右上のMAPに被りそうになると消えていく。
鞄、帽子、スクロール、短剣、地図、肌着などなどなど。
肌着?
「肌着?」
ともかくズラズラと何かを取得したらしい表示が中々消えない。
なんだこれ、新手の嫌がらせか? ボスを倒した瞬間に確定ドロップと取得経験値とが一気に処理されて強制取得された時みたいになってる。リザルト画面式じゃないのか。リアルタイム重視の設計してやがる。
「じゃない。なんなんだよこれ。一々ジングルが鳴らなくて幾分はマシだけど、目を閉じても通知だけは来るパターンかよ。設定で重要度別に表示の有無を設定させて欲しい……でもねぇよ!」
自分に突っ込んでいく。いやマジで何なんだ。
というか冷静に考えたら、目を開けてるとインターフェースが見えるってなんだよ。
だったらおい、視界の左上で『60/60』とか表示されてるのが俺の体力だってのかよ少ないな。いや分からねぇ、比較対象が居ないのに60ってどんぐらいか全然分からん。
あとMPってなんだよマジックポイントだとしても魔法なんか無い世界じゃないのかよ、本当はオカルトって実在する系なのかよ。しかもHPより多くて120も有るぞどうなってんだよ後衛職って事?
「わかんねぇ。もう何がなんだか全然分からねぇ……けど、取り敢えずアイテム整理するか」
THE・現実逃避。あぁでも、
軽く体を見ても、何か袋を持ってる感じでもない。ならどこに収納されたんださっきのアイテム達は。獲得したんじゃないのかよ。
「もうホントなんなんだよ。ここはどこ私はコウジ。何が起こってるの」
ひっきりなしに色々と起こる。処理能力の限界が近いし、右下の通知は収まったのでもう一度寝てやろうか。
そこまで考えて、しかし実行には移せず、
「手を上げて」
「うぇい」
与えられた情報を処理するのに敏感になっていて、背後からの指示に迷うこと無く実行し、しかし情けない声を出してしまった。
あぁ、なんだよ今度はイベントかよトコトン巻き込まれ系の変なクエスト始まってないかこれ?
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