初めての対人戦

 インすると、俺はとりあえずマリンと合流するために神々の京都タワーのポップ地点でじっとしておくことにした。相変わらず人は少ない。ポップ地点のはずなのに人が滅多にわいてこないのもそのせいだろう。


 程なくして他の人たちと同じような、いやより一層ごつい格ゲーに出てきそうなアバターが俺に近づいてきたので逃げた。逃げたのだがめっちゃ必死に追いかけてくる。よく考えたら恐らくマリンなので立ち止まると、マリンはちょっと怒った感じで話しかけてきた。


「ちょっとミル君なんで逃げるのよ!!」

「いや、全然知らないごついおっさんが追いかけて来たら普通は逃げるだろ」

「それはそうだけど……あらかじめ集合場所も決めておいたでしょ」

「悪い悪い」


 キャラクターネームは「アンデルセン東郷」となっている。どちら様ですか?


「ていうかお前なんでそんなにごついキャラなんだよ。女用のアバターってないんだっけか」

「キャラの性別が選択できるタイトルでそのまま女性キャラを使う女性って割合的には半々くらいだと思うけど」

「そんなもんか」


 性別の選択できるタイトルでそのまま女性キャラを選ぶ女性というのは、オンラインが標準となった今のゲームでは徐々にその割合を減らしている。女性キャラというだけでナンパまがいのことをしてくる男もいれば、声もかけずに付きまとってくる男もいたりするからだ。そういった現実を知っている女性ほど、男性キャラを選択してしまう。同じ男として申し訳ない。

 中にはそれを知っているからあえてアバターを女性にして可愛く着飾り、姫プレイ的なものを楽しむ女性もいるんだけど……あくまで一部だ。


 そういえば……アバターってどこで選ぶんだ?俺は気づいたらこれだったし。

 まあいいか。どちらにせよアバターを変える気はない。


「えっと、とりあえず惑星をいじっていく方向でいいんだな?」

「うん。生命を進化させたりして神PTを稼ぐの。それでレベルが上がったりより上位の生命を創れるようになったら対人戦でも有利だから」

「なるほどな。じゃあとりあえず俺の宇宙に行くけどいいか?」

「うん」


 ここで俺はアンデルセン東郷ことマリンとフレンド登録をした。

 そういえばコンビニの店長でミリーの親父さんでもある破壊神・紅とのフレンド登録も忘れてたけど……次に会ったときでいいか。探すのめんどいし。


「じゃあ先に行って。その後フレンドから追いかけるよ」

「了解」


 俺の宇宙『アステロイド銀河第二星系』にある惑星1にやってくると、早速たった一人だけポツンと立っている人間が出迎えてくれた。こいつ水も食料もないのにどうやって生きてたんだ……。

 と思ったらいつの間にやら植物があちこちに生えている。植物を食べていたのだろうか。たくましいことだ。


「空気と生命を創れば、その規模に応じて水や植物は自動で生成されるようになってるんだよ」


 いつの間にかやってきたマリンがそう教えてくれた。

 マリンは、惑星にただ一人佇む人間を指さして聞いてくる。


「この子に名前はつけてあげたの?」

「名前?つけれるの?」

「うん。『NPC人間』って書いてあるところをクリックすると、名前を書き換えられるようになるから」

「本当だ」


 いちいち名前つけてたらキリがないと思うんだけど……。

 まあ最初の一人くらいはつけてもいいか。


「どんな名前がいいかな?」

「ミル君は最近仲のいい女の子とかっているの?」


 えっ……何その質問。なぜにこのタイミングで?


「う~ん……ミリーくらいかなあ。近所のコンビニ経営してるおっさんの娘なんだけど、マリンも中学一緒じゃなかったか?」

「わかった。じゃあそのミリーちゃんで」

「お、おう」


 何だろ……マリンが怖い。

 とりあえず名前を書き換え終わった。


「これでよしっと。それじゃ早速アメーバを大量に作っていくか」


 メニューウインドウから持ち物タブを開き、生命の素を海に向けてドラッグ。数を3に指定しようとしたらミスって2にしてしまった。すると、俺の惑星に大量の内閣総理大臣が誕生する。


「おおおおい!何人いんだよこれ!」

「ふふ、ミル君ったら……内閣総理大臣はね、マスコミが大量発生したときにタンク役として作るんだよ」


 タンク役とは特にMMORPGでよく使われる用語で、盾役などとも呼ばれる。ボスの注意を自分に向けてその攻撃を一手に引き受け、味方が安全にボスを攻撃できるようにする役割を果たす。

 このゲームを作ったメーカーは内閣総理大臣を何だと思っているのだろう。

 ていうかマスコミが大量発生したときってどんなときだよ。


「そういえば……あんまり聞きたくないんだけど……これ、創った生命を消したいときとかってどうするんだ?」

「色々あるけど……手っ取り早いのは、天罰系スキルかな」

「天罰系スキル?」

「最上位は『天罰』で、色々ある自然現象からランダムに一つ選んで惑星にいる生命を消すの。使ってみよっか?」

「お、おう」


 使えるのかよ。マリン結構やりこんでるな……。


「はいっ」


 マリンが可愛らしく『天罰』のスキルを発動すると、突如よりにもよってなぜかミリーの上だけに雷が落ちてきて、ミリーが消えた。


「ミリイイイイイィィィィィィ!!!!」

「これは『落雷』かな。ミリーちゃん残念だったね。ふふっ」


 ふふっじゃねーよ!!今の本当にランダムだったのか!?


「まあただの人間よりは内閣総理大臣の方が長生きするから。気を取り直していこうよ」


 何かそれも哲学的な話だな……。いや、もう深く考えるのはよそう。このゲームを作ったメーカーは絶対にそこまで考えてないから。


 言われた通り気を取り直してアメーバを大量に生成する。

 よしよし、順調だ。

 そのとき、天マの入店音がなった。何だ?と思っていると、システムアナウンスが聞こえてくる。チュートリアルのときと同じ声だ。


「神Lvが上がりました。階級が『生きる価値のない生ゴミ』から『生きる価値のある生ゴミ』へと上がります。せいぜいもっと頑張ってください」


 階級とかあったんだな……。それ以外はもういちいちツッコまない。

 メニューウインドウを開いてステータスを確認していると、マリンが話しかけてくる。


「レベルが上がったの?」

「ああ。ああいうシステムアナウンスは自分にしか聞こえないのか」

「そういうこと」


 アメーバを大量に創ったものの、水や植物が増えるには時間がかかるらしい。


「今のうちに惑星を増やしてそっちにも生命とか創るか」

「うん。それがいいと思う。お金はある?」

「ああ、破壊神・紅っておっさんから大量にもらった神Mで材料は買い込んであるから問題ない」

「それって色々と大丈夫なの?」


 それからもう一つ惑星を創り、大気と生命を創るとまたLvが上がった。

 階級は上がっていないっぽい。


「そろそろスキルとれるでしょ。何かとってみなよ」

「スキルって生命消すやつだろ……なんか嫌なんだけど」

「まあまあそう言わず。直接手を下すのが嫌なら『疫病』とか『腹痛』あたりがおすすめだよ。『腹痛』の場合死ぬかどうかはランダムだけど」

「ゲームの話だよな?」


 本業暗殺者の人かな?


「どうせやるなら一瞬でやりたいし、まだスキルポイントは取っておくよ」

「そっか。でもスキルLvとかのことがあるから、早めにね」


 そう念を押してくるマリン。でもなあ……。

 とにかくこのスキルというのが物騒であまり好きになれない。

 軽く見てみたんだけど、例えば他の『最終戦争』系スキルだと、『自爆テロ』とか『空爆』とか怖いやつしかない。


 それからどんどん惑星、大気、生命と作っていくと、次は魚とかの海棲生物も作れるようになった。


「結構惑星の数も増えてきたから、対人戦の練習でもしてみる?」

「たしか惑星をぶつけ合うんだよな?」


 自分で言っといて未だにどういうことなのかわからんけど。


「うん、そうだよ。さすがミル君は飲み込みが早いっ」


 いや飲み込めてないから。


「対人戦のやり方を教えるね。大会とかだとまた別なんだけど、野良っていうか辻試合だと、人を指さすとその人の名前の横あたりに『宇宙対決』ってメニューが出てくるからそれをクリックするの」


 ミリーを指さす。『宇宙対決』が出てきた。


「そうすると宇宙対決を申し込まれた側には『宇宙対決を申し込まれました。受けますか?受けますよね?はい受けました』って出て選択の余地はないから注意してね」

「それ何を注意すりゃいいんだよ」


 『宇宙対決』をクリック。マリンにアナウンスが流れた間の後、システムアナウンスの声が響き渡る。

 目の前の空間に文字が浮かび上がってきた。


「コスモファイト。レディ……」

「GO!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ちょっとちょっと!!ビックリマーク多すぎて画面見えないから!!

 しかも場所変わってるじゃん!!


 ようやくGOが消えて視界が開けると、そこは宇宙空間が広がっていて、遠くにマリンがいた。戦闘中は会話ができないらしく、何か試してみろ、という意味なのか、「かかってこいよ」の形で指をクイクイやっている。

 「アンデルセン東郷」という名前と筋肉ムキムキ古代ギリシャ人のアバターのせいもあって、何かの格ゲーをやっているのかと勘違いしてしまう。


 ていうかこれどうやって惑星をぶつけるんだ?

 それにそもそも、戦略とかはないのか?ただ育てた惑星をぶつけるだけなら廃人有利ゲーだけど。


 宇宙空間には、俺とマリンが視界の奥にぎりぎり見えるくらいの距離で対峙していて、その間に自分たちの惑星が並べられている。マリンの惑星多っ。俺の惑星が五個なのに対して、マリン側には惑星がゴミのように並べられていた。


 試しに自分の惑星に手をかざし、それをマリンの惑星の内の一つに向けてみる。

 おっ、動いた動いた。まあまあの速さだ。本当にあの速さで動いたら星に住む生命がどうなるかとかそういったことはもう考えない。

 そして俺とマリンの惑星がぶつかる。俺の惑星だけが粉々になった。おい。

 おおおおおおおおおおおい!!俺の惑星!!

 その後何回かそれを繰り返し、俺の惑星が全て粉々になったところでシステムアナウンスが流れた。


「m9(^Д^)9mプギャー」


 うるせえ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る