神が見守る世界で僕は

夜狸

第0章 物語が始まる前の非日常

第0話 始まっていない物語

-運命の神殿-



一人の女性が目を閉じて祈りを捧げている"様にみえる"


「…見えない。」


その声には一握りの驚愕と、隠し切れない興味を示す声色が混じっている。


「すべてが見えない訳ではない。されとて全てが見える訳ではない。

こんな事は世界エルダーが誕生して以来初めての経験ね。」


彼女は世界エルダーを支える神の1柱

運命を司る女神"プリムラ"


彼女は世界が誕生してから生きとして生きる者達の運命を見続けてきた。

彼女の眼は"過去・現在・未来"そして"異世界"すらも見渡す力を持つ。



神の中でも強大な力を持つが故に、神と人が関わる事で成り立っている世界においても、見る事だけしかせず、下界との関わりを断ってきた女神といわれている。



しかし、一人の赤子が世界に生まれ落ちた事で状況が初めて変わった。


いや、変えてしまった。


女神が"また"世界に干渉する口実を与えてしまった。



女神は赤子をもう一度その"眼"で見ると、眼前に映像が浮かび出す。


そこには、赤子の歩む人生が無造作に映像として流れていた。



【孤児院の子供達と遊び回り、"友情"を育んでいく幼子】


【神々からスキルを授かる儀式で"困難"と"希望"を手に入れて慌てる幼子】



ここだ、何度見てもこの先の未来にノイズがかかり始めてしまう。




【風の師の試練により、巨大な魔獣から逃げ惑いながら"絶望"を知って泣いている幼子】


【解呪の魔術師の力の前に、"困難"を封じていた鎖が崩れ去る。理不尽な死の淵に立たされ"憤怒"する幼子】



ノイズで見えない"空白"の時間が加速度的に増えていく。

それでも、飽きもせず女神は見続ける。




【自分と同じ魔法のはずなのに、全てを凌駕してみせる老執事に"嫉妬"する少年】


【女中の主からの"慈愛"に、追憶の彼方にすら存在しないはずの母親を連想する少年】



女神は己の力を全力で"眼"に集める。

ほとんど断片的になってしまった映像を繋ぎ合わせる様に。




【敵はこの世界を包む熱そのもの、己の武器である"知恵"で戦いを挑む少年】



女神の顔が初めて苦痛に歪む。

それほどまでに少年は"見られる"事に対する抵抗が強い。

けれども女神は、何かを探すように映像を見続ける。




【赤い髪の少女が驚愕と殺意すら籠った瞳で少年の持つ物を見つめる。

 相対する少年は"困惑"と"恐怖"に負ける事なく、正面から相対する。

 ここで背を向ける事こそが、失策だと知っているかのように、、】



この瞬間女神の瞳が閉じ、遂に映像はノイズのみしか映さなくなった。



女神はしばらく目を抑えたまま微動だにしない。





『"お気に入り"が出来ると一人に執着する癖は変わらんな、プリムラ』


「あら、来ていたの"カランコエ"」


先ほどまで存在を感じ取る事すら出来ない男が近くに佇んでいた。



『念話が繋がらないのでな。気は済んだか?』


「気は済んだかですって?」




「ふふふ」



「あはははは」



「もちろんよ!今回は見えたは!あの子赤髪の少女のお陰で確証も得られた」



「でもまだよ」



「今彼の前に出て行っても意味はない」



「私の願いはまだ叶わない」



「そんな呆れた様な目で見るのはやめてくださるかしら、カランコエ」


「大丈夫よ、私はこの神殿から出ない」


「今は、まだ」


そういって女神は目を閉じて、元の祈る様なポーズになる。




そんな女神を見て男はため息を吐きながら毒づく。


『はぁ、、本当に女神には自由奔放過ぎる者が多すぎるとは思わんか?』


「・・・」



それに沈黙も持って回答する女神を一瞥すると、もう一度ため息と赴いた目的を告げて男は回答を待たずに来た道を戻る。


『はぁ、、近々フォータムにてスキルの儀を執り行う。念話は繋がる様にしおけ。以上だ』


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『それにしてもやっかいな女神に目を付けられるとはな災難な少年だ』


『しかも、映像を見るに秀でた"武"を持っている様には見えなかった』


『むしろ、魔獣だけでなく同じ人種にたじたじになっている情けないタイプに見えたが、、あ奴の趣味は強い英雄ではなかったか?』


『どちらかと言えば反応するのは、赤毛の少女のはずだ。

 あれは異世界からの転生体。

 英雄録の主人公の様に、理不尽に立ち向かえるポテンシャルを秘めた稀有な存在だ。

 そんな存在を前にしても、少年の方に目を付ける理由とは…』


『まぁよい、いずれ出会う様だ。災難な少年に少しでも良い導きをしてみせようかの』


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男が神殿から姿を消したのを確認した女神は呟く。


「まだ私は干渉しないわ。まずは私の眼ですら見れない彼の人生ものがたりを記録してもらいましょう。

きっと"エーデルワイス"も彼を気に入るわ。」


「ふふふ」


「はやく成長して技術を磨いてね、"トキト君"」





「かならず手に入れて見せるわ"異世界の美容アイテム"を」






これは、神々が人に干渉する事が日常となった世界エルダーで、異世界にほんの神からスキルを得てしまい、社と庭付きの亜空間の所有者となった、なるべく戦わないでのんびり暮らしたいと願う少年の日常を綴った物語である。



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