落ちこぼれ純白生と金糸の生徒会長

藤森空音

第1話 出会い

 名前の横に49と書かれた一枚の紙。淡いブロンドの髪の少女は俯きがちにそれを受け取った。

「前回よりはいい点数なんだけどね……」

言いにくそうに少女の担任は言葉を紡いだ。研修生になる為の試験。規定の合格点以上を取れないと研修生になれない。月に一度行われるこの試験で彼女は筆記試験だけができないでいた。普段の定期考査の何倍も難しく、噂によれば黒羽が地方公務員試験に合格するぐらいの難度らしかった。それでも、この学校の生徒にとって取り立てて難易度の高い試験というわけではない。

「失礼しました」

先生からの小言を聴き終え、 退室する。手元に残されたのは再試験を告げる紙。追試は2週間後。欄外に日付と時間が書き込まれた紙を眺めながら、友人の待つ図書室へ向かってフラフラと飛んでいた。全階層につながる吹き抜けの中央ロビーへ差し掛かった時だった。

「……っ」

何かにぶつかり、尻餅をつく。彼女は静かに視線をあげる。

「すみません、大丈夫ですか?」

最初に目に入ったのは黄色い長い紙、そして六翼の純白の羽。見上げた先で深いアメジストのような瞳と目があう。数百年に一度の秀才と噂されている生徒会長の姿があった。

「おや? 打ち所が悪かったかな」

反応のない彼女に不安になったのか、彼はしゃがみ込み視線を合わす。

「す、すみません! 私の不注意でした!」

慌てて頭をさげる。その声がロビーに響くのが耳に届いた。彼はそんな彼女の姿に笑みをこぼしながら、「大丈夫だよ」といい、顔を上げるように促した。

 彼女を見て柔らかな表情で微笑む彼は、背後のロビーに降り注いでいた琥珀色の光と相まって、神々しく、そして、あまりにも美しかった。天窓から差し込む琥珀色の陽も、ステンドグラスを通した万華鏡のような色彩豊かな光さえも彼の存在を引き立たせるためであるかのようだった。彼はそんな彼女の視線に気づくこともなく、傍に落ちている白い紙を拾い上げる。

「……おや。珍しいね、追試かい?」

彼はその紙を顔の横でひらひらとさせる。少し悪戯じみた笑みを浮かべながら。

「か、かえしてください!」

伸ばした手は弄ばれるように空を切る。

「おや、私の質問には答えてくれないのかな?」

紙を自由に飛ばしながら、面白そうに笑う。

「追試ですよ!! 生徒会長様には縁遠いお話でしょうけど!」

紙を追いかけながら彼女はそう声を上げる。その返答に満足したのか彼女の手に紙が下される。

「まさか、私だって試験の点数が悪いことぐらいあるさ」

驚いた表情に作られた声でそういうと、彼は立ち上がった。

「友人を待たせているので失礼してもよろしいでしょうか」

少しの敵意を込めた声で言葉を発する。彼はもちろん、と言い道を開けた。彼女は軽く一礼すると、図書室を目指してロビーから飛び上がった。

「アル! こんなところにいたの? 生徒会室まで迎えにいくから、と言っていたよね?」

短い赤髪の水色の羽を持った少年が生徒会長の背後から声をかける。

「ごめんねアベリア。ちょっと暇だったから」

「もう。君が何かしでかしたら僕のせいになるんだから……」

アベリアと呼ばれた少年は軽くため息をつき、生徒会長を先導する。

「ミュゲ・ブランシュ……」

小さくつぶやいた彼女の名を拾った者はいなかった。

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