この世にある怖い話
ハル
第1話 呪い
その日は残業で終電に間に合わず、タクシーで帰った。しばらくしてタクシーを降りた後、家まで歩いていると男はふと立ち止まった。こんなところに神社なんてあるんだな…。この時、立ち止まらず家に帰っていれば良かった、と今だからそう思える。が、遅かった。
神社の方から何か音がする。…コン…コン
もう丑三つ時の時間だ。''普通'' ならこんな時間に人なんていないだろう。じゃあ、あの音はなんの音なんだろう。男は気になって仕方がなくなり、神社に踏み入ってしまった。しばらく行くと奥の方で見つけてしまった。音の原因を。…居た。女が。木に何かを打ちつけている。…コン…コン いや、近づいてみると少し違う。正確には…ゴンッ…ゴンッ 男は動けなくなってしまった。すると、男は音も出していないのに女がこちらの方にゆっくりと顔を向けてきた。女は髪が長すぎて顔がよく見えない。だが、口元が笑っている事だけは分かる。男はもう声が出ないほど震え、やっと走り出した。女は笑いながら追いかけてくる。顔を見られたのだろうか?…分からない。男は元々、心霊系などは一切信じないし全て、科学的根拠があり、説明できないものはないと思っている。だけど、怖いものは怖い。男は情けなく泣きながらその日は家に帰った。
週末の昼間に、男はその神社の神主さんに相談をしに行った。夜中にここでこんな事があった…と。男はまず、信じてくれるのかどうか心配だったが、神主さんは顔色一つ変えずに話を聞いてくれた。そして、その女がいた場所を教えてくれ、と。男は最初、戸惑ったが仕方ないと自分に言い聞かせ、その場所へ案内した。昼間の明るい時間にその場所へ行ってみると、不思議だ。あの時の不気味さは全くない。男は逆に笑えてきた。俺は何か非科学的なものを期待していたのか、と。でも、それもつかの間だった。神主さんがその木の裏を探してみると釘に刺された藁の人形が見つかった。男はまた、寒気が止まらなくなってくる。これって…。男は聞いてみると、神主さんはすかさず、はいと答えた。そして、男は何気なく人形を裏返した。…発狂しそうになった。…いや、正確にはしたかも。
…藁人形の顔であろう部分に、その男の写真が貼り付けてあった。あの女はこの男を呪いたいがために夜中にここで釘を打っていたのだ。それを俺は見つけてしまった。恐怖が胸を染め始める。だが、神主さんはこの呪術の場合、他人に見つかれば、その呪いは呪おうとした自分自身に返ってくる。つまり、呪われるのは女であって、男は大丈夫だと言ってくれた。男はそれでも安心はできなかった。
なぜなら、呪いは受けない。が、その女は俺を呪おうとしたのは事実だ。つまり、誰かが俺を殺したいほどに恨んでいたのかもしれない。男はそれが誰なのか全く見当がつかなかった。…そして、それから間もなくして、それが誰だったのかを男は知らされる。
男を殺したいほどまでに恨み、呪おうとしたのは…
…いつもお互いに信じ合える唯一のパートナー、そう、男の妻だった。あの神主さんに相談した2日後、男の妻は自宅で首を吊り、死んだ。遺書など無かった。その前の日まで、普通に2人で夕飯を食べ、普通にテレビを見、2人で寝た。なのに、朝起きると妻は首を吊っていて、もうこの世にはいなかった。そして、後で気づいた。部屋に飾っていた2人の写真。それに写っている男はあの藁人形に貼られていた写真と同じ服装、同じポーズだった。妻はこの写真をコピーか何かで複製し、それを呪う時に使っていたのだ。
神主さんがあの時、言っていた。
…あの呪術は、他人に見つかればその呪いは呪おうとした、自分自身に返ってくる…と。
男は今も非科学的なものは信じていない。
首を吊り、この世を去った妻も呪いが自分に返ってきたから死んだのではなく、男に見つかってしまった焦りや後悔みたいなものが彼女を追い詰めたのだろう。…いや、後悔はしていないか。この世を去った今も彼女は男を殺したいと思っているだろう。確信できる。
…
…なぜなら、彼女の、妻の部屋には大量の藁人形と額に釘を刺された男の写真があったのだから…
この世にある怖い話 ハル @halu-ikeuchi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。この世にある怖い話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます