第30話 ウォルフォード・アクア・レングラント

 トーナメント一日目が終わって、アーリアはマルティナから夕食に招待されていた。

 そこにはなんと、元宮廷魔術師の“ダビッシュ・ウル・ネイビス”もいた。

 かなりな老齢の細身で鋭い視線の男だった。魔力は抑えていたが、かなりの量に思えた。さすが元重鎮。

 俺はアーリアの隣に座って困った顔をしていた。

 だって凄い睨んでくるから。


 その元宮廷魔術師。

「ネイビス様。彼は私の弟子ですの。ラビ、自己紹介して?」

 ふってきやがった!!

「ラビと申します。縁あって、師匠に鍛えてもらっています。」

 宮廷作法は始めの頃だったから忘れてないか不安だったが大丈夫だったようだ。

 ちなみに変装したままだ。

 だからかめっちゃ、俺の前髪の生え際あたりを見てくるんだけどね!

「なかなか、よい弟子を得られたようだ。」

 ふむふむと頷いている。典型的な魔法使いのイメージそのままだ。すごいな。

「ネイビス様のお弟子さんは確か、アデイラでしたね。彼女は優秀です。ネイビス様の教えがいいのでしょうね。」

「本日は危なげなく勝ったようでひと安心じゃ。決勝にはなかなか優秀な生徒が当たるそうで、楽しみじゃな。」

 一旦話を切るとメインを静かに口に入れていた。上品だなあ。宮廷魔術師ってマナーが最上級じゃなきゃ勤まらなさそう。

 アデイラは別会場の試合だったから俺達は見ていない。彼はそちらに行ったのだろう。弟子の様子を見に。

「ネイビス様のお弟子様が見られるとは、大変楽しみです。最終日の第一試合でしたね。」

 アーリアがそつなく会話を進めた。さすがに王族、如才ないな。

「うむ。その日も見に行く予定じゃ。」

 と相好を崩して言った。

 …これって爺馬鹿とか言わない?

 ともかくマルティナの夕食会は和やかに進み、終わったあとは二人とも速攻で寝た。


 二日目の2年度生は、高度な魔法戦だった。

 お互いの力量が拮抗していて読み合いで魔法を繰りだす。無詠唱とはいかないが詠唱短縮は誰もがしている。優秀な魔術師が多く出るということは王国にとっていいことなのだろう。

 あの中に勇者パーティーに呼ばれる人材がいるかもしれない。

 少なくとも、先発組に比べたら、物凄く優秀に見えたのは内緒だ。

 素材は悪くないんだけれど、どうにもボタンの掛け違いがあるような気がして、ならないんだよな。


 そして3日目。

 俺の兄弟子、”ウォルフォード・アクア・レングラント”の準々決勝だ。

 第一会場 第一試合。

 ウォルフォード・アクア・レングラントVSシリル・メア・イムレ


 ウォルフォードは水色の髪の甘いマスクの超イケメンだった。

 物凄くもてるというのも納得だ。これは女の子がほっとかない。

 すらっとした体形、姿勢のいい立ち方。180センチに届こうかという身長。

 目は青く、服装は冒険者風、要所に皮の防具をつけた格好だ。得物は片手剣。

 対してシリルは赤い髪のやや小柄な、余り鍛えてない感じの体形に見える。

 魔法使い然としたマントと杖。


 審判のコールで二人は中央で向き合った。


 開始の合図に二人は魔力を練り上げた。先にシリルが炎の魔法を放つ。

 対してウォルフォードは聖属性の魔力を剣に付与している。というか覆っている。

 俺が前に魔物相手にやった技とほぼ同じだ。ちょっとプレッシャーを感じても仕方がない。

 相手は少し怯んでるように見える。そうだな。覇気が違うな。


 ウォルフォードは抑えた中でも強さがわかる。足の運び、剣を扱う手先の用い方。隙がなかった。

 彼は炎を水魔法の“水刃ウォーターカッター”で、撃ち落とした。そのまま近づいていく。

 ただ歩いているだけなのに怖さを感じさせている。ああ、この戦闘スタイルはタツト君の戦闘スタイルと似ている。確かに、師弟だ。


 相手が放つ魔法をことごとく潰していく。


 あっという間に詰められて相手は杖で剣を受け止める。流麗な舞のような動きに翻弄され相手は杖で受け止めるしかない。シリルは間合いを取れず、有利な状況を作れない。

 魔法を撃ってはその隙を狙われた。


 打つ手がなくなったのか相手は至近距離で炎の攻撃魔法を放った。それを剣で防御、霧散させて、柄で殴り飛ばした。吹っ飛んだ相手を追いかけて、喉元に剣を突きつけた。


「それまで!」

 もちろんウォルフォードの勝利だった。


「あの、ウォルフォード様というお方は、魔法使いというよりは剣士のような戦い方ですね。」

 アーリアがマルティナに言う。

「彼は騎士の家系で、剣は常に傍にあったからというようなことを言っていました。それと魔法を組み合わせて戦うのは理にかなっている、だそうですわ。」

 なるほど。本来は騎士団を目指さないといけないわけか。大変だな。



 次の試合はもっと簡単だった。

 遠間から雨あられのように降り注ぐ“石礫ストーンバレット”を、風の盾を纏いながら防ぎ、距離を詰めて足元から氷で覆い、動けなくさせた上で剣を首筋に突き付けた。


 見事だった。彼は強い。しかも底を見せなかった。


 こんな人物もいるのか。凄い。戦闘技術とセンスがずば抜けている。

 魔法はタツト君の方が魔力量と発想力は及ばないかもしれないが総合的に彼は強かった。

 見せてもらえてよかった。


「素晴らしい強さですね。レングラント卿も誇りに思うことでしょう。」

 マルティナがその発言にくすっと笑った。

「レングラント卿はまだまだだっていうかもしれませんわ。」

 そう言えば俺、そのレングラント卿にあったことないんだよな。

 どこにいるんだろうか。


 さて、決勝当日、第一競技場、第一試合。


 アデイラVSタツト・タカハ・レングラント


 アデイラはピンクの髪のちょっと小さめの体形の子だ。ロリっこ?

 眼鏡をかけていて動きやすさを考慮した防具に防御用のマント姿だ。手に杖。

 可愛い系の顔で眼鏡をかけている。緊張感みなぎる表情で、中央に立った。

 対してタツト君は自然体だ。急所のみの軽防具、ナイフと短剣。


 開始の声に二人は魔法を発動させた。

 お互いに相手に手を伸ばし、詠唱をする。


「風竜!」

「比類ないその姿を現せ、水の化身、水竜!」


 タツト君の方がノータイムな分、早い。しかしお互い次の動作に入る。

 ややアデイラ寄りでぶつかり合う水でできた竜と風でできた竜。絡みあって上空に抜ける。

 そこは小手調べだろう。拮抗して終わった。

 タツト君は、舞台の縁に沿うように駆ける。

 距離を保つようにアデイラも、走り出し、杖をタツト君に向けた。

 詠唱が響いた。

「水よ弾けろ。水の礫!」


「風の盾、押し返せ!」

 タツト君も防護魔法を展開した。速い。しかも盾の位置を変えた。

 あれ?なんだ?光ってる?

 俺はその時、タツト君に群がる光に気を取られた。


 アデイラから小さく詠唱が響いて、その持つ杖に聖気が宿るのを感じる。ウォルフォードと同じ技だ。武器への属性付与。

 アデイラがタツト君の懐に飛び込んで、杖を叩きつけようとした。それをタツト君は聖気を纏わせた短剣で受ける。

「!!」

 アデイラが驚愕するが一瞬で押さえて飛退く。距離を稼ぐために水の礫を撃ってくる。

 タツト君は風の盾で弾きながら、仕切り直しのように後退すると魔法を起動した。


ミスト

 結界で覆った舞台の中に濃霧が発生した。まさかの何も見えない、だ。

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