第3話 王女との会談

 ”アクアミネスの勇者”…その世界観そのままのこの世界。

 この世界の人々には持ちえない力を持って邪王を倒す。

(あ、じゃあ、魔力あったから俺にも魔法使えるんじゃね?ステータスとか、スキルとか。鑑定とか定番じゃないか)


 ………。


 うん。そう簡単にチートは授けられないよな。もしかしたら何かキーワードとか、やり方があるはずだから諦めないことにしよう。

 俺は考えごとにふけっていたので、気づくのが遅れたが、扉からノックの音が聞こえた。

 もう窓の外は真っ暗だが、誰が来たんだろう?


「はい、どちら様…」

 開けた扉の前には王女様がいた。


「来ちゃいました。」

 にっこりと微笑む王女に俺は目眩がした。


 俺男。なんで夜中に来るんだよ。逆夜這なのか?わかってないのか、王女様…。

 とりあえず帰そう。つか、発覚したら俺が悪者になりそうだよ。


「あー王女様?何かご用事ですか?詳しい話は明日かと…」

「アーリア」

 はい?

「アーリアです。」

「………。」

 えーっと。

「アーリア様?」

 仕方ないから呼んでみた。

「はい!」

 満面の笑みで返事をされた。まずい、可愛い。

 でもちょっと頭痛がした。護衛も付けずに出歩いていいのかと。


 と思ったら項にピリッと何かが走った。思わず振り返ってドア付近の廊下、窓付近を見た。


 誰かいる。


 ああ、これって陰形とか、そう言う奴じゃないか?忍者系だよな。

 俺ってそういうの感じる方じゃないけれど、ここに来て何かスキルが付いたんだろうか?

 まあ、護衛がちゃんと付いてるなら文句はない。


「アーリア様は俺に何か用ですか?詳しい話は明日するんでしょう?」

 目元を染めた王女様はもじもじしながら話しだした。

「あの、私と二人の時は普通に話して欲しいのです。最初の話し方は堅苦しくありませんでした。」

 あーといってもなあ。背後にいる二人に殺されそうですが。

「いいのですか?」

 とりあえず確認しよう。

「もちろんです。私からお願いしてるのですもの。」

 ふうっと息を吐いて頷く。とりあえず、護衛の方に視線を流す。殺気はなかった。でも殺気もなしに首はねられそうな気はする。

「わかった。これでいいだろ?」

「はい!!」

 だからなんでそんなに嬉しそうに笑うのだろう。可愛い…。

 仕方ないな、と俺はため息をつき、隠れている護衛に刺さないでくれよ、と願いながら王女を招き入れた。

「どうぞ?」

 大きく開いた扉から王女が入った後、完全には閉めずに小さな応接セットに招いた。


「ありがとうございます。」

 椅子を引いて促したら嬉しそうにされた。対面に俺も座った。

 入れてくれたまま放置してある紅茶のポットを手に取った。

「ごめんな。ちょっと冷めてる。でもないよりいいと思ってくれ。」

 カップに注いで王女の前と自分の前に置いた。


「で、俺への用事はなにかな?」

 冷めてしまった紅茶を口に含んでから尋ねる。王女はパッと顔を輝かせて興奮した様子で言った。

「あの、ウサミ様、異世界の事、お聞かせいただいても?」

 あ、そうかあ。そりゃあ、興味があるよな。俺もここの世界に興味があるし。

「んー、そうだなあ。俺がこっちのことを教えてもらえるなら、かな?こっちのことを知らないと、俺の世界と違うところがわからないし…」

「そうでした。いけない。私の事ばかり考えちゃって。ウサミ様はこちらへ来たばかりなのに…」

 頭をコツッと自分で小突いててへっと舌を出す。うわーあざとい仕草なのに素直に可愛い。この王女様やばい。俺、自分で王女書いてて萌えが足んないって思ってたけど、この王女なら萌えるわ―。シナリオ直してえ…

「そのウサミ様はやめてくれよ?俺がアーリア様って呼んでるんだから。俺もアキラでいいよ?」

「そっそうですね。では、そう呼ばせていただきます。」

 赤い顔で頷く王女に俺はドキドキしながら頷く。


「あーっと、彷徨い人って言ってたけど、俺勇者じゃないような気がするし。いろいろ知識は仕入れたいんでまずは文字と言葉を覚えたいんだけど、可能かな?それとこっちでは図書館てある?あと集団で戦闘訓練とかって俺苦手なので一人で受けたいんだけど。もし他の彷徨い人がいるならその人とはあんまり顔合わせたくないんだけど。お願いしてもいいかな?」

 俺、オタクで変わり者なんで集団行動苦手なんだよなあ…。


「いえ、アキラ様は私の勇者です!私のもとに現れたのですから。でもアキラ様のご希望はできる限りかなえたいと思っています。」

 ものすごいきらきらした目で見られてる。両手を胸で組んでお願いのポーズで!

 あれ?俺ってめちゃめちゃ好感度高いんじゃ…これで勇者じゃないってわかったら悲しむよな。この人。


「勇者ってどうやって選ばれるの?」

 それを言うと王女は視線を下に向けた。

「200年前までは聖剣という勇者にしか使えない邪王を倒す剣があってその剣を扱えることのできるものが勇者ということでした。また、王族には勇者が現れたことを女神様から直接教えていただける能力があります。今回は多分、私に託宣が降りるでしょう。聖剣は失われて聖剣による選別というのはできないのです。」

 やや沈んだ顔でそう説明してくれた。


「聖剣が失われた?」

 俺は不思議に思った。だって水峰は聖剣に選ばれた、とそう書いていたから。

「はい。200年前に現れた邪王は今まで現れた邪王よりひときわ強い力を持った存在であったと伝えられています。勇者たちは相当苦戦したようです。完全に消滅させることはできず、不毛の地に今でも残されて邪王を封印しているということです。常に風が聖剣の周りを舞い、そこに近付ける者はいないということです。」

 王女の言葉を聞いて、俺はなんだか狐につままれたような気分だった。


 この世界は水峰の描く”アクアミネスの勇者”のシナリオではないのだろうか?

 俺は果たして、自分の世界に戻れるのだろうかと、手に冷たい汗を掻いていた。

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