彷徨い人と勇者

第1話 始まり

 王城の謁見の間に使者が頭を垂れて待機していた。


 私は一つ高い台座の王族の座る椅子に座って言葉を待つ。昔からの習慣で王族は直接公式の場で言葉を交わすことはない。侍従や侍女、側近の言葉を介して会話を行うのだ。

 私の前で、使者が私の護衛騎士、フリネリアに伝言を伝えた。


「“彷徨い人”が現れたと、報告がありました。王都から馬車で1カ月ほど離れた東にある辺境の村です。」


 フリネリアが文官からの報告を伝える。こっそりと耳打ちされた。


 勇者になるべき運命を背負ってやってくる勇者候補。


 私は頷き、指示を耳打ちした。保護して、王都に連れてきて欲しい、と。


 前回の邪王の封印から二百年。とうとう、この日が来た。


 “彷徨い人”は女神の使い。異世界から女神が呼び寄せた希望の光。二百年前の“彷徨い人”は勇者一人きり。


 今回現れたこの方は勇者なのでしょうか?

 女神様からの宣託は…まだない。


 ただこれだけはわかっている。

 “彷徨い人”は邪王復活の兆し。

 恐ろしい災厄の前触れなのだ。


 私、ミネス王国第一王女アーリア・サファ・ミネスはひっそりとため息をついた。

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