すごく眠たい~多分この眠気は季節的なものばかりじゃなくて~
にゃべ♪
第1話 異常な眠気と謎の妖精
おかしい。何がおかしいかと言うとすごく眠いのだ。いくら春が眠くなる季節だと言ってもこれは流石に変ではないか。何故だ。何故まぶたが重くなるのだ。昨日まではここまでヒドくなかった。なかったはずだ、多分。
季節は4月。入学式とか入社式とか新しい学年になったりクラス替えがあったり……。春の代名詞が出会いと別れなら、3月は別れを、4月は出会いを担当している。そんな新しい季節に私はただひたすらに眠かった。このままじゃ眠り姫なんて呼ばれてしまう。いや、そんな綺麗な呼ばれ方はしないか。
新しいクラスは知り合いがほぼいない。高校二年生。進学を真面目に考えて内申点に怯える時期でもある。テストの点に不安のある学生は普段の素行で点数を稼がねばならないのだ。なのにこうも眠いとヤバイ。さっきも熟睡してしまった。
幸い、好きな英語の授業だったのでそこまでダメージはなかったんだけど……どうしてこんなに眠いんだろう。このままだとテストも満足な点は望めそうにない。
クラスで私以外に眠っている生徒がいない訳じゃない。見渡せば数人机に突っ伏している。彼らの名前こそ知らないけれど、少なくとも学力的に優秀でない事は雰囲気で分かる。今の私はあれらと同じレベルなのだろうか。今はそうでなくてもこの状況が続けば間違いなくそうなるのだろう。
何とかしなければ。
物事には必ず原因と結果がある。原因のない結果は有り得ないし、結果を辿れば必ず原因に辿り着くものだ。まずはその原因を――。
はっ!
気がついたら授業が始まっていた。え? いつから? 時間を確認すると残り時間は後10分。今の授業は……そうだ! 国語だ! 先生も何故私を放置したんだろう? 思いやり? それとも――?
クラスの誰も私が眠っていた事に反応すらしていない。そりゃそうだよね。知り合いがいないんだもの。隣の席の子とか反応しても良さそうなものなのに。
あ、そうか、出来が悪い生徒が増えた方がライバルが減るもんね。なんて、ひねくれてるなぁ……私。
残り10分の間に私は必死で黒板の文字の羅列をノートに筆記した。当然のように間に合いはしなかったけれど、多分半分くらいは書けたと思う。頑張った、うん。私頑張ったよ?
このままではいけないと、私は次の授業の用意をしてすぐに突っ伏した。休み時間の間に少しでも英気を養うんだ。睡眠時間を補充すれば授業中も少しは起きていられるはず……。起きて……いられ……。
はうあっ!
また気がつくと私は眠っていた。しかも保健室でだ。おかしい、何の記憶もない。一体どうして?
「あ、起きたのね」
「えっと……」
保健の先生が私を気にかけて覗き込んできた。去年は健康優良児で保健室のベッドを使った事すらなかったのに。どうしてこうなった。
「あなた、声をかけても揺さぶっても何をしても起きなかったそうよ。それでこれはおかしいって保健室に運ばれたのよ」
「え、えぇ?」
先生の声に言葉も出ない。いくら寝付きがいいからって普通そこまでしたら起きるよ。今までだったら起きてたよ、絶対。
でも逆にそれで良かったのかも。病気だと勘違いされてたなら仕方ないって思われてるよきっと。だらしないとかふざけてるとかいじめの対象にはなっていないはず。
そりゃまぁ、自分でもこの眠気は病気みたいなものだと思ってはいるけどね。
「いつからなの?」
「えっ?」
私が安堵していると先生から質問が飛んできた。その質問の意味が分からずに私は困惑する。
「いつからそんなに眠ってしまうようになったの?」
「ああ。えぇと……」
先生の質問の意味が分かったところで、私はその質問に答えようと必死で記憶の糸を手繰り寄せる。そう言えば今朝も異常に眠気が強くなり始めた時期を思い出そうとして眠くなったんだっけ?
ちょうどいい、今ここでそれを思い出そう……思い……出そ……う……。
「……あらら、また眠っちゃった? これは重症ね」
次に気がついた時にはもう放課後だった。私は眠った記憶がない。少しまばたきをしたら時間だけが過ぎ去っていたような、そんな感覚だ。もしかしたら本当にヤバイ病気か何かに侵されているのかも知れない。病名は、そう、眠り病、とか何とか。
目覚めた私は帰り支度をして学校を後にする。教室に戻ったら何人か残っていた生徒に本気で心配もされた。私は愛想笑いを振りまいて病人の振りをする。今はこれでいいけど、あんまり長くこの状況は続かないだろう。
周りが誤解している間に何とか原因を突き止めて、この症状を治さなければ……。
不思議と帰り道は全く眠くならなかった。路上で眠くなって寝てしまっては大変だ。そうならなくて本当に良かったと思う。って言うか昨日まではここまでのひどい症状じゃなかった……はず。やっぱり何かしらの病気なのだろうか?
家に帰った私はまっすぐに自分の部屋に入る。もしかしたら学校から親に連絡が行ってるかも知れない。
でも今は余計な干渉をされたくなかった。部屋に戻ってすぐにベッドにダイブする。そして寝っ転がりながら今日一日に起こった出来事を、反芻する牛の食事のように思い返していた。
「えーと、確か……」
記憶をまるっと一日前まで戻すと、記憶の片隅に何かが引っかかった。えーと、何だっけ? 何かが胸の所まで出かかってる気がするんだけど……。
「無駄だよ」
その突然の声に振り向くと、私以外誰もいないこの部屋に誰かがいた。誰かがいるはずなのにハッキリと視認出来ない。え? なんで?
「君とはそう言う契約だ」
「ちょ、どう言う事よ!」
意味の分からない事を突然一方的に言われて私はパニックになる。分かる事があるとするなら、この声の主が人間じゃないって事くらい。人間じゃないなら何かって言えば妖精? なのかも知れない。どうしてそんなのがこの部屋にいるんだろう?
私の記憶はもしかして――。
「あ、あなたは誰なの?」
「それは言えない」
「何でよ!」
「言ったら感知されてしまう」
目の前の妖精はそう言うと黙ってしまった。この会話で分かった事は、目の前の彼は何かに追われているらしいと言う事だ。きっと他人に身の上話を話したら、その追いかけている相手に今の居場所が分かってしまうとか、そう言う感じなのだろう。
しかし困ったな。事情が分からないと対処のしようがない。話を聞かなくても分かる事と言えば、この妖精が全長50センチくらいの大きさで、緑色のメルヘンな服装をしているって言う事くらいだ。足元はまだ何とか見えるものの、そこから上半身にかけてグラデーションがかかっていて顔なんて完全に真っ黒。
言ってみれば某推理漫画の犯人状態。本当に謎の存在だ。そもそもどこから入ってきたのか、どうやって突然出現したのかも分からない。
「君の記憶は人質だ」
「どうして?」
「僕が生き延びるためだ」
どうやら私は記憶を奪われたらしい。そうして妖精に何かあれば私はその記憶を永遠に取り戻せなくなると言う事なのだろう。彼の目的を会話の内容から推測すると、どこかから逃げ出して匿って欲しいとかそんなところだろうか。
ここはうまく相手を刺激させにようにして、もっと情報を引き出さないと。
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