HORIZON

ポン

第一章 勇者を目指して

第1話 少年ホライ

ここはとある大陸の外れにある小さな村

そこは自然に恵まれていたもののその村の住人はほかの町の人々との交流はあまりしないため、とてももの静かな村だった。

…一人を除いて。


「やあ、おはようハニー達。」


彼の名前は「ロゼ」

絶世の美青年と呼ばれ、様々な地にその名を轟かせている青年。


「ロゼ様ー!おはようございますー!」

「あ、あの私…貴方様のために朝ご飯を作ってきたのですが…」

「ちょっと!抜けがけはずるいわよ!私だって…」


今日も彼の家の前は村に住む女性やはるばる遠方からやって来た女性で溢れかえっています。

しかし彼が相手をするのは決まってこの人でした。


「おはよーロゼー」

ロゼ「はは、ホライじゃないか

おはよう」


彼の名前は「ホライ」

この世界に語り継がれている勇者の伝説を聞き、自身も勇者を目指しあっちこっちを探検している不思議な少年。

ホライは今日も今日とて探検に行くため、押し寄せる女性をのけて親友のロゼを誘いに来たようです

ホライ「ねー探検に行こうよ」

ロゼ「おやおや、今日も探検かい?

もちろんOKさ

ハニー達、申し訳ないけど今日はこの子の相手をしてあげなきゃいけないんだ

デートはその後で、お願いできるかな?」


ロゼは沢山の女性の申し出を跳ね除けホライの探検に付き合いました

ホライとロゼは女性達のガッカリした声を後にして今日も探検に出かけます

ホライ「良いの?僕の探検を優先して?」

ロゼ「ふふっ、君の誘いを後にするわけにはいかないよ」

ホライ「え?何で?」

ロゼ「それは君が私のお気に入りだからさ…ふふふっ…」

ホライ「?」

ロゼ「ところで今日はどこに行くつもりなんだい?」

ホライ「あ、えっとね、外れにある祠に行こうと思ってるんだ」


ホライ達が向かおうとしている祠は古代語らしきものが刻まれた石碑が安置された不思議な所でした。

ホライはその石碑に何か秘密があると睨み、ほぼ毎日そこに足を運んでいました。


ホライ「今日こそあの暗号を解くぞー」

ロゼ「意気込むのもいいけど、あまり1人で行動はしないでくれよ

こうして私が同伴しないと探検に行けなくなったのも、君が1人で危険な所に行ったこともあるからね」

ホライ「うん、分かってる」

ロゼ「そもそも、私は君を1人にしないさ…君は私の…」

ホライ「あ、見えたよ」


しばらく歩き、2人は祠に到着しました。

その祠にある石碑は深くえぐられた地面の底にあり、見に行くだけでも厳しい断崖を降りなければいけません。

ホライとロゼは慎重に断崖を降り、石碑の場所へ向かっていました。

ホライ「…?あれ、何だか話し声が聞こえるような…」

ホライはどこからか聞こえる話し声を聞き取り、気を取られてしまいました。

ホライ「わっ!?」

ロゼ「ホライ!?」

それが仇となりホライは足場を踏み外し、下に落ちてしまいました。

幸いホライは大きな怪我はなく、上から向かってきているロゼと合流しようとしました。

その時さっき聞こえた話し声がまた耳に入り、ホライは一旦道を変えて声がする方向に向かいました。


ホライ「…ここは石碑?

あれ、何をしてるんだろ…あの人達」

「…初めからお前は利用されていた」

ホライ「…?」

ホライは黒衣に身を包み大鉈を持った男と青い服の女性の会話を目にしました。

ホライは近くの岩に身を隠してその会話を聞いていました。


黒衣の男「お前は俺達を騙したつもりだが…

逆に騙されているとは思いもしなかったろう?」

青い服の女性「くっ…」

ホライ(…?なんの話だろ?)

黒衣の男「さあそれをよこせ」

青い服の女性「渡してたまるか!

これを渡してしまったら…


魔王が復活してしまう!」


ホライ「え!?」

ホライは隠れているのにも関わらず驚き声をあげてしまいました。

幸いにも黒衣の男達にホライが隠れている事はバレませんでしたが、ホライの心臓の鼓動は激しくなりました。

ホライ(魔王が…復活する…!?

どういうことなの…!?)

動揺しつつもホライは男達の会話を聞こうとします。

黒衣の男「そうか…そこまでしてあいつを守りたいか…

だが、渡さないというのならここで斬り捨てるまでだ」

黒衣の男が手に持っていた大鉈を青い服の女性に突きつけました。

青い服の女性「ここで奴にやられるわけには…」

青い服の女性は1歩下がり黒衣の男から離れました。

青い服の女性「ディメンション!」

黒衣の男「!」

ホライ「!?」

青い服の女性が光に包まれたと思うと一瞬にしてその場から消え去ってしまいました。

ホライ(な、何…?何が起こったの…?)

黒衣の男「…逃がしたか、奴め…逃げられると思うな…


…ところで、お前はさっきから何をしている?」

ホライ「…!!」

黒衣の男は岩に隠れていたホライの方を向き、ゆっくりと近づいてきました。

黒衣の男「俺がお前の存在に気づいてないと思っていたのか?

出てこい、さもないと岩ごと斬り倒す…」

ホライはとてつもない殺気に恐れながら黒衣の男の前に立ちました


黒衣の男「俺の問いに答えろ、返答次第では貴様は生かしてやる

嘘で逃れられると思うな…」

ホライ「…」

足が小刻みに震え、まっすぐ前を見れないほどの恐れがホライを襲いました。

黒衣の男「お前はさっきの話をどこまで聞いていた?」

ホライ「…あなたが…青い服の人を利用したとか…言っていたところから…」

ホライはか細い声で質問に答えました。

黒衣の男「ほう…ならば魔王復活も耳にしたということか…」

ホライ「…!」

黒衣の男「…運が悪かったと思え」

ホライは黒衣の男の方を見ました。

黒衣の男が腕を振り上げた次の瞬間、ホライの体を巨大な鎌鼬が襲い、気がついた時には体に大きな切り跡が刻まれ地面に倒れ込んでいました

ホライ「…」

黒衣の男「いらぬ手間が増えたな…」

黒衣の男は大鉈をしまい、青い服の女性のように光を発してその場から消え去りました。


斬られたホライは、まだ息をしていたものの既に意識は薄れ今にも力尽きそうでした。

ホライ(痛い…体がすごく痛いよ…

僕…死んじゃうのかな…勇者に…なれずに…このまま…)

ホライが体に力を入れようとしても激痛が走り、動くことすら出来ません。

ホライ(嫌…だ…みんなに…伝えなくちゃ…魔王が…復活すること…誰か…に…)


ロゼ「…!?ホライ!?」


それからしばらく経ち、ホライは奇跡的に目を覚ましました。

ホライはロゼの家のベッドで目を覚まし、その傍らにはロゼが涙を流しながらうつむいていました。

ホライ「あれ…?ロゼ…?」

ロゼ「ホライ!?ホライ!!」

ロゼはホライに抱きつき、泣きながらホライの名前を呼び続けました。

ロゼ「ホライ…本当に…本当に生きていて良かった…」

ホライ「ロゼ…?僕、何でここに…?」

ロゼ「ホライが石碑の前で血を流して倒れていたのを見つけて、私が急いで村まで運んだんだ…

良かった…君がいなくなったら私は誰を愛せば…」

ホライ「…あ!そ、そうだ!!」

ホライはロゼの話を聞いて、あそこであった出来事を全て思い出しました。


ホライ「た、大変なんだ!!魔王が…魔王が復活しちゃうんだ!!」

ロゼ「な、どうしたんだ!?魔王!?」

ホライは大慌てでロゼの両肩を掴み頭を必死に揺さぶりました。

ロゼ「お、おち、おちつ、落ち着くんだ!

魔王とはいったい!?」


ホライは必死に祠であったことを説明しました。

黒衣の男と青い服の人の会話、魔王が復活すること、黒衣の男に斬られたことをロゼだけでなく村の人や村長にも伝えました。


ロゼ「ホライ…今はゆっくり休んでくれ…」


ホライが話したことは「悪い夢でも見ていた」、「頭が変になってる人達だったんじゃない?」、「疲れてるんだよ」と言われ誰にも信じてもらえませんでした。


ホライ「何でみんな信じてくれないんだろ…

本当に僕、夢を見てただけなのかな…」

誰にも信じてもらえず、自分が夢を見てたかもしれないと思うようになりました。

ホライ「でも…傷は残ってる…嘘なんかじゃない…」

何日も何日も悩んだホライはついに決心しました。

ホライ「昔、勇者は魔王を倒して平和をもたらした…

魔王が復活する事実を知ってるのが僕しかいないなら…」


ホライは村のみんなが寝静まった夜に、誰にも気づかれないよう村を出ていきました。

ホライ「僕は…勇者を目指してる…

ならば僕が魔王の復活を止めて、勇者になるんだ!」

ホライは親友とお世話になった村の人達を残して故郷を出て1人で魔王の復活を阻止する旅へと出かけました。


ホライ「…一人ぼっちは寂しいけど、勇者はそんな弱気な事言わないよね…」


ロゼ「1人じゃないさ」


寂しく歩くホライを呼び止めたのは、親友のロゼでした。

ホライ「ロゼ!何でここにいるの!?」

ロゼ「数日前から様子がおかしいと思っていたんだ

君のことだから魔王が復活と聞いて、1人で魔王復活を止めに行くんじゃないかと思ってね」

ホライ「うわあ…その通りだよ…」

ロゼ「ふふっ、君と何年付き合っていると思っているんだい?

それに言っただろう?私は君を1人にしない、ってね」

ホライ「うん!ロゼ、ありがとう!」


こうして勇者を目指す少年ホライとその親友である絶世の美青年ロゼは、魔王の復活を止めるべく宛もない旅へと出たのでした。

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