ヨミちゃんの復讐計画日記☆

乙島紅

ヤコ=ムク暦5102年 豆の月 暮れの候


 もう二度と日記を書く日など来ないと思っていた。


 それなのに……それなのに!


 なぜだ……!


 一体どこから我は間違ったのだ……?


 七回にわたる生涯を捧げ、身を引き裂くような修行を積み、ようやく世界最強の七属性魔法を極め、この混沌に満ちた世界を手中に収めた——ここまでは完璧だったはずだ。


 この世に「虹魔大賢者ヘル」の名を知らぬ者はおらず、恐れられ、うやまわれ、もはや我が言動ひとつひとつが歴史書に刻まれるであろう栄華を極め、さらば日記をつける必要などないであろうと、愛用していたとびの羽ペンを捨てさえしていたというのに。


 どうしてその我が、このような屈辱を味わう羽目になった?


 支配下においていた国はことごとく解放され、ついには我が城にまで敵勢力の侵入を許し……直接出向いて七属性魔法を使ったにも関わらず敗北……。今や身体にはわずかばかりの魔力しか残っておらず、宴に暮れる敵どもの目を盗み、身を潜めて筆をとっている始末。


 そう、すべての元凶はあの「勇者」とやらだ。


 「現代日本」という異世界からやってきた奴は、見た目や覇気こそそこらの平民と何一つ変わらなかったが、この世界には無いエネルギー——奴の世界の言葉でいう「チートスキル」を持っていた。


 勇者は旅によって鍛えてきたという観察スキルや魔法耐性スキルがどうのこうのとほざいていたが、奴の持つチートスキルの真価はそんなものではない。


 奴の力の本当の恐ろしさは、外面・内面共にに対した魅力がなくとも、オークのメスから王国の姫まで老若男女の異性をなぜか惹きつけてやまないところにある。


 つまり、「ハーレムスキル」だ。


 そして我の最大の失態は、七つの人生を修行のために犠牲にしてもなお、自らの性を捨て去ることができていなかったことにある。勇者にはそこにつけ込まれてしまったのだ。


 恐るべしチートスキル……!


 奴の力に呑まれて正気を失う前に、早く奴を倒す術を見出さなくては……。


 我が再び筆を取ったのは、この屈辱の思いを戒めとして記録しておくためでもある。


 待っていろ勇者よ……。


 我は必ず貴様を倒す方法を見つけ出す。そして再び栄華の日々をこの手に……!



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