第6章 重なり合う道‐13
「武器屋の親父が言うには……」
静まりかえる空気の中、ハルが淡々と口火を切る。
『自分がこの状況を作り出してる自覚がないのな』
スープを口に運びながら、ボソボソと話し始めるハルを元は横目で盗み見た。こんなに人当たりが良いパーティでもこれなのか……そう思わず溜息が漏れ落ちる。
【たく、よりによってあの洞窟に住み着くとはなぁ。子供達の病気も心配だが、如何せん洞窟から出て来ないってんで、町を動かす事も出来ねぇ。あのヤドギの洞窟はもうダメだ】
親父が剣の刃の具合に目を細めると、大きな溜息を吐いた。
【ちぇ、いい収入源だったのによぉ】
アミラタは、摘んで二週間足らずで枯れてしまう植物だ。派生場所が限られる為、ヤドギの洞窟で地域全てを賄っている。発症率が低くても結構な稼ぎになるのだと、親父は鼻息を荒くした。話が武器屋の稼ぎの悪さにまで及ぼうとしたので、頃合いを見てオプトが疑問を投げかける。
【何故、獣は洞窟から出て来ないんだ?】
至極当然の問いに、親父は傾げる首をゴキゴキ捻ると怪訝そうに言葉を繋ぐ。
【う~ん。それは俺らも不思議で仕方ねぇんだなぁ。ヤドギの洞窟はさぁ、何て事無いシンプルな洞窟なんだよ。アミラタは一番奥に生えてんだが、そこまで一直線だ。脇道なんてあらしねぇ】
親父が二本目の剣に手を掛けている。
【他には?】
【いや~? ホントに何て事ないからな……、ま、蝙蝠がチラホラ居る位かな】
これ以上、有意義な情報を得られそうもないと、そう判断したハルは、最後に声を掛けた。
【洞窟の内部を詳しく教えてくれ。広さから長さまで、出来うる限り詳細に】
そこまで話すと、ハルはパンにチーズを乗せて箸で刺し、焚火に近付けてた。
「武器屋の親父の言葉通り、特段特徴のある洞窟ではない。距離にして一キロ、高さは約五メートル強。確かに地下三階までは降りるが、脇道もない一直線だ。アミラタが生えている場所は、少し広く成っているらしいが……。何処に潜んでいるのか、今は検討がつかない」
ハルの言葉に、四人は言葉を無くした。とても食欲が湧かなくて、さっきから食事が進んでいない。
「えっと……じゃ、何なの?」
「憶測に過ぎない。洞窟に入って確かめるのが良いだろう」
「もう洞窟に居ないとか?」
「それは無い。獣の気配は洞窟全体に感じている」
ハルの「気配を感じる」という言葉に、怪訝そうに目配せをしている。しかし正体不明の獣の存在に、意識は既に洞窟に向かう。
「やめるか~?」
元が頭をボリボリと掻きながら、ごく軽い感じで皆に声を掛けた。こんな場所まで来て、止めるも無いのだが、いつもと変わらない声に、気持ちの高ぶりが落ち着く。
「止めない!」
オプト達は勢いよく言葉にして、ザッと立ち上がった。その様子を横目に、ハルは箸に刺したパンをパクリと頬張ると、チーズがトロリと溶けて香ばしい香りが立ち上る。
「飯が未だだ。元が作った分は、全部食べろ」
「……はい」
淡々としたハルの言葉に、四人は上げた腰をストンと落とした。
洞窟内部はランタンが焚かれ(恐らく数ヶ月もつのだろう)、薄ボンヤリとした灯りで照らされている。少し進むと、入口の明かりは途切れたが、ランタンのお蔭で、移動を続けるのに支障はない。オプト、ナツメ、ミディと続き、ララ、元、最後にハルの順で歩みを進める。全員が意識を研ぎ澄まし、如何なる状況にも対応出来る様に備えた。しかし時折、洞窟内部に響く風音がぶつかり合うだけで、静かな世界そのものだ。
「ひゃっ」
ララが小さい声を上げた。
「どうした、ララ!」
振り返るオプトに、ララが小さく手を振り笑った。
「あ、ゴメン。大丈夫、上から水滴が……」
首を押さえながら、頭上を見上げた時、
「!」
天井一杯に何かがびっしりと蠢く姿が視界に飛び込んできた。その異様な光景に、誰ともなく叫び声を上げそうになった時だ。何故か全身が金縛りにあった様に、硬直し動かない。
声も出ない状況に、オプト達の全身から汗が噴き出し、大きく心臓が跳ねる。こんな状況で攻撃を受けたら、パーティは全滅だ。
『やばい、ブアンティーノか!? これは毒!?』
必死に置かれた状況を把握しようと、皆が躍起になっている時、ハルの低い声が淡々と落とされた。
「落ち着いて聞け。こいつらは、危害を加えない」
その言葉通りフッと体の自由が利く。皆が恐る恐る天井を見上げると、そこには小さい蝙蝠がギッシリと蠢いていた。
「ハル~、俺は慌ててないって」
皆と同様に魔法を掛けられた事が不服なのだろう。元はハルのつむじに向かって、小さく恨み節を聞かせた。
「ちょっと! 仲間に魔法を掛けないで、よ!」
ミディがこれまた呟くように振り返り文句を言うと、発せられた「仲間」という言葉に、皆がフッと和む。
「な、なによ」
ハルの言葉通り、蝙蝠は神経を尖らせては居るが、襲って来る気配はない。ハルの一連の判断と行動に、オプトは目を配ると、体を翻し「行こう」そう声を掛けた。
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