夢見る魔法少女は就職活動に失敗しました

ちびまるフォイ

必要とされない魔法少女

「それでは自己PRをお願いします」


「あっ、えーと、私はとても協調性のある人間です。

 昔から友達は多かったですし、それにケンカもしたことなくて

 あと、えっと、学校では先生とも仲良かったですし、その……」


「はい、OKです。結果は追ってご連絡します」


数日後、不採用通知が届いた。

煽っているようにも見える「お祈り申し上げます」という文面とともに。


「なんなのよもう……」


この歳になれば普通に生活して普通になれると思ったのに。

私が昔に求めていた普通の幸せへはいっこうに近づけない。


次の面接では、もう自分を飾り立てるのは辞めにしよう。


「それじゃ面接を開始します。ご自分のセールスポイントを教えてください」


「はい!! 私は昔に魔法少女をやっていました!!」


これには面接官もくいついた。


「魔法少女……? なんていう子だったのかな」


「はい。魔法少女ミルキーです」


「……」

「ミルキーです」


「ちょっと待って」


おじさんの面接官は手元のスマホで一斉に画像検索をかけた。

画像がヒットすると、「ああ」と納得の声をもらした。


「昔にやってたねぇ。思い出したよ」

「しかし、大人になるもんだねぇ」

「昔と全然違うじゃないか」


「ま、まぁ……成長しますから……」


「で、魔法は使えるの?」

「え?」

「魔法だよ、魔法。魔法少女だったんだし使えるんでしょ?」


「いや……それなんですが、魔法のステッキはもうないので……」


その瞬間、面接官の目から好奇心の光が失われた。


「……あぁ、そう」


「あ! でもでも! 魔法処女じだいに培った

 どんな困難でも立ち向かえる勇気と一生懸命な気持ちは負けません!

 魔法少女の経験は御社に入ってからもきっと生かせます!!」


「でも魔法使えないんじゃねぇ」


「いやいや! 今の私は昔の魔法に頼り切っていた自分よりもずっとずっと――」


「不 採 用」


「ぎゃああ!!」


閻魔大王の判決のように不採用をその場で言い渡された。

地獄に落ちるような感覚は同じに思う。


自分の身を削って黒歴史をさらけ出してもなお少しも好転しない人生に辛くなり、

助けを求めるように居酒屋に友人を召喚した。


「あのさ、私を都合のいいサーバントみたいに呼び出さないでくれる」


「なによぉ! 魔法少女がなんだってのよぉ!!」


「だいぶ飲んでるわね……」


「だいたいねぇ、この国はぁ過去ばっかり見すぎなのよぉ!

 なぁーにが『経験はありますか』だぁ。

 経験がないから就職しようって話じゃないのよぉ!」


「まぁ、魔法少女の経験しかないもんね……」


「それに、こちとらいつまでも魔法少女じゃないのよぉ!!

 昔の写真を取り出して『変わりました』、だぁ!?

 当たり前じゃないの! 映画の子役だって成長するわ!!」


「わかったわかった」


「魔法少女のときの私はみんながちやほやしてくれた!

 なのに今はどう? 誰も私を必要としてくれない!

 こんなに気持ちは前向きなのに! 誰も! 誰もうわぁぁぁん!!」


「怒ったり泣いたり忙しいわね……」


その後も大っぴらに何か叫んでいたような気がするが、

溢れる感情と大量のアルコールでまるで覚えていなかった。

目を覚ますころには、真っ暗な居酒屋で一人だった。


「あれぇ……? 誰もいない……。ああ、もう閉店だったのね」


顔を上げると、蛍のような小さな光が近づいてくる。


「やぁ、ミルキー。久しぶりだね」


「あなたは、妖精さん!?」


「魔法少女卒業式以来だね、元気に……でもなさそうだね」


「うう、こんなやさぐれた魔法少女(その後)の姿を見られるなんて……」


妖精さんは魔法少女の力と魔法のステッキと、

販促用のグッズあれこれをくれて、私を魔法少女に変えてくれたのだった。


「声、こっちまで聞こえていたよ」


「妖精さんも飲んでいたの?」


「うん。妖精だって魔法少女と同じく使い捨て。

 そのシーズンの世界を救えば、その後はお役御免。

 こうして新しい妖精就職先を探してる身ってわけ」


「妖精さんも大変なんだね……」

「ミルキーも」

「うん……」



「それで、提案があるんだよ。もう一度魔法少女にならないかい?」


「もう一度?」


脳裏には人生の最盛期の映像がよぎった。でもすぐに現実に戻された。


「むりむりむり! 年齢的にムリだよ!

 今の私があんな可愛い服着たら痛いだけだよ!」


「安心しなよ。もちろん、年齢も当時の状態まで若返らせるよ。

 君が魔法少女になれば、ボクも妖精としてまた仕事ができる。

 お互いに幸せになれるんだよ」


「でも……ほかの友達は?」


「友達って、今の年齢のミルキーの友達か?」


「私が若返っちゃったら、友達とは離れちゃうでしょ?

 それに、お父さんお母さんとの年齢も離れちゃう。

 妹にも年齢を抜かされるし、それにそれに……」


「ミルキー!」


妖精はさえぎるように声を出した。


「君はどうしたいの?

 魔法少女に戻って昔みたいな日々を取り戻せば、

 今の人間関係とはどうしたって離れることになるよ」


「うん……」


「今の生活を続けることも、ボクは止めない。

 君だって、普通の人生を送りたいって言って魔法を捨てた。

 普通の生活を続けることの楽しみだってあるはずだからね」


「私は……」




「魔法少女になる!!」



「わかったよ。またよろしくね、ミルキー」


妖精は不思議な力を使って年齢を若返らせた。

謎の光に包まれた変身シーンを挟んで、私は魔法少女ミルキーへと変わった。


「やっぱり私は魔法少女がいい!

 誰かに感謝されて、みんなに注目される魔法少女がいい!

 たとえ今の生活を手放したとしても!!」


「さぁ、ミルキー。魔法少女としての仕事をはじめよう。

 まずは事務所で魔法少女登録をしないとね」


「うん!!」


帰ってきた魔法少女ミルキーは混沌の満ちた現実世界へと飛び出した。

ふたたび魔法少女としての活動が始まった。


その後、町に出た悪怪獣へ魔法少女がやってきた。



「魔法少女・パラリン!」

「魔法少女・ユニバース!」

「魔法少女・まみりん!」

「魔法少女・マジカル!」

「魔法少女・パティ!」

「魔法少女・カナベリー!」

「魔法少女・マーメイド!」

「魔法少女・ミルキー」

「魔法少女・キッス!」

「魔法少女・ファンミィ!」

「魔法少女・セイント!」

「魔法少女・みぃ!」

「魔法少女・レイヤー!」

「魔法少女・ミラクルベール!」

「魔法少女・みんきーべる!」

「魔法少女・モモちゃん!」

「魔法少女・ポップン!」  ・・・



「「「 私たち、魔法少女126です!! 」」」



その後、ミルキーは魔法少女を二度卒業することになった。


「どうしたのミルキー? 魔法少女が嫌になったの?」


「普通の生活するより注目されないなら続けてる意味ないよぉーー!!」

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