泥の青春

藤村唯斗

冷め切ったコンビ

第1話

帰りを急ぐサラリーマン、店内が賑わうスーパー、家族で食事を囲む家、そんな夕暮れ時に駅から10分ほど離れた木造ボロアパートから携帯のアラームが響く。


ジリリリリッ


布団からゆっくりと手を伸ばしアラームを止める。


「ふぁー。もうこんな時間か、ライブの入り時間まで少しあるな…。」


少し掠れた声で山崎は大きなあくびと共に空き缶や弁当の空箱が山積みになったテーブルからタバコとライターを取りタバコを加えて火をつける。

タバコの煙が怪しく部屋に広がる。


タバコを吸いながら寝間着を部屋の隅に放り投げ着替え、ライブに向かう為に家を出た。


駅に着きチャージ残り少ないパスモを改札に当て夕方の満員電車に体を押し込み、いつもの様につり革には掴まらず乗客の体に身を預ける。


おもむろに携帯を開くと一通のラインからメッセージが来る。

「入り時間5分ほど遅れるわ。」

ラインの差出人は山崎と5年コンビを組んでる北条からだ。


俺たちはザ・スクランブルというコンビで都内のライブで活動する売れない芸人である。

元は別々で活動してた同士だがお互いのコンビを解散し、仲が良くライブでもよく顔を合わしてた2人だったので結成した。

2人は組む時、約束事を決めていた。


1「遅刻をしない」

2「お互いを尊重する」

3「解散をしない」


だがコンビも5年続けば気持ちも緩む

約束その1はもう無いようなものになってる。


山崎は一言「了解」とだけ返した。


今年で山崎達は芸歴20年になる。


ふとその事を考えると山崎はつぶやく。


「早えーな‥。」

電車の窓から移り変わる景色の明かりを見ながら。

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