かみさま
芯平
第1話プロローグ
1月末の真冬なのに珍しく全く風もなく暖かい日だった。テレビの天気予報士はこぞって異常気象ですと朝から騒いでいた。
そんな日の夕方、二人の男が電車を降りた。周りの乗客は明らかに彼らを気にして見ている。ただ視線を合わせないようにチラチラと。
それもそのはず、彼らはかなりの長身で二人とも2メートル以上あるだろう。でも体格は全く別で、一人はまるで冬の街路樹を連想させるかのように顔色も悪く痩せ細り、もう一人は毎食コレステロールをおかずに脂肪を食べていますと答えそうなくらい横にも大きい。周りの視線を気にする事なく彼らはホームから改札に無言で向かう。
横浜駅西口の改札を出て交番を左手に進むと繁華街がある。
雑多な通りを進み、ちょっとした橋を渡り雑居呼び込み合戦が毎晩行われている居酒屋があるビルを通りすぎ、日々のストレスを発散しようと騒いでる酔っぱらいのサラリーマンや、好みの女の子を何とかしたいと欲望丸出しの学生たちの群れを避けながら、少し歩いて左に曲がると、行きつけの居酒屋がある。
真冬なのに風も無く暖かいから、街を歩く酔っぱらいは皆コートを脱いで汗をかいていた。皆、酔っていても奇妙なこの二人組の事は気になるようで、チラチラ見ていた。視線を合わせないように。バレないようにクスクス笑う失礼な女子大生の集団もいた。しかし二人は気にする事無く、目的のバーを目指しながら会話を始めた。
「今夜は風もなく過ごしやすいな、え?」
コレステロール男が笑いながら言った。このコレステロール男の名前は神成 鳴。
「たまの休みや、皆喜んでますやろ。」
冬の街路樹男が答える。名前は北風 吹太。
「お前がサボってブラブラしとるから、皆ちょっと汗かいとるやないか。」とコレステロールの神成。
「そこらにウジャウジャおる性欲の塊の男どもが汗かいた姉ちゃんをホテルに誘うええ口実になりますがな。」街路樹の北風が答える。
「神成さんも今日はいつもよりも暑そうですな。ダイエットしなはれ。」
「ワシは時期が来たら痩せる。知っとるやろが。」
「そらそうやけど、太りすぎでその辺の女子大生が、神成さんのこと見て笑てますわ。」
「え?笑われてるのお前やで。お前が笑われてるの気づかんって、お前は幸せ者やの。」
ガハハハハと勢い良く笑う神成に、周りの人々は「いやいや、お前もだろ!」と心の中でつっこみながら笑ってる事を二人に気付かれていた事を気まずく思った。
「それにしても今夜の新年会は楽しみやの」コレステロールの神成が言う。
「特にあんたは楽しみやろね」と皮肉めいて街路樹北風が答える。
二人は目的の居酒屋の前に着いた。看板には「かみさま」とあり、ドアには「本日貸切り」と書いた張り紙がある。
重たい重たいドアを神成が開けて二人は入る。
「いらっひゃい!!」勢い良く店員らが挨拶をする。声は元気だが見た目は貧相で頭は汚く禿げた上に歯がボロボロで、あまり関わりたくないような感じの男だ。そんな禿げた貧相な男は
「あっ!風神様!雷神様!お久しふりでふ!相変わらすお元気そうて!!」笑顔で貧相な男が滑舌悪く話かけてくる。
「久しぶりやの!ワシのどこが元気そうやねん。見ての通りガリガリやないか。」と北風。
「いやいや、それはお仕事が順調な証拠ですわ。さ、さ、さ!2階で皆さんお待ちでしゅわ。」
そう、北風と神成の二人は風神と雷神の仮の姿であり、北風はこの冬の時期は毎日北風を吹かす仕事でガリガリになり、神成は忙しくないから丸々と太るのである。今夜は神様たちの新年会でる。この二人以外にももちろん神様たちが、このバーに集まっている。どんな新年会なのか。
かみさま 芯平 @cbgb
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