第14話 匂い

「ねえ」


「なに?」


「ゆいは、いつもこの布団で寝てるの」


「そうだよ」


 布団に埋もれて、枕にうずくまり、2人は寄り添い合ってベッドに寝ている。


「ゆいの匂いがする。持って帰っていい?」


「ダメだよ」


 ふざけたけれど、枕くらいは本当に持って帰ってしまいたい。


「ゆい、ごめんね」


「え?何が?」


「シーツ、いっぱい濡らしちゃった」


「えへへ、いいでしょ?」


「いい?って?」


「シーツにいっぱい、ゆいの染みた」


「ひどい。恥ずかしい」


「がんばった。いっぱい出るように」


「うそ?わたし初めてだよ?あんなに出るの」


「だから、がんばった」


「うへぇ、すごい」


 ひなたは、お尻のあたりの、まだ湿っているシーツを撫ぜる。


「ゆいは、すごいなぁ、上手で。わたしもゆいを沢山気持ちよくしたい」


「気持ちいいよ。すごく」


「もっとたくさん。何度も何度もイカせたい」


 そう、自分がそうしてもらったように。


「ひなたといると、すごく幸せ。ひなたにさわると身体が悦ぶ」


 ゆいは、言いながら髪を撫でてくれた。


「エッチの時の顔も好き、こうしてる時の顔も好き」


 ゆいの大きな瞳で見つめられると胸がいっぱいになる。涙が出そうになる。


「わたしは、ずっと感じてるの。ひなたといる間、ずっとイキっぱなしだよ」


 ゆいが笑顔を見せる。ボリューム全開、出力最大の笑顔に心も体も粉々にされる。


「ひなただけだよ。 ひなただけが大好きだよ」


「ありがとう」


 ひなたの目から涙がこぼれて、顔をうずめていた枕に染みた。


「これも作戦?」


「違うよ。でも嬉しい」


 ゆいは、ひなたの頬に残る涙を舌で拭った。


「わたしは、ゆいの手が好き」


「手?」


「そう。手。ゆいの手で触れられると、どこを触られても感じる」


「うそ?どごでも?」


 ゆいはそう言うと、ひなたの鼻をつまんだ。


「いやーん。感じる」


 鼻声で答える。ふざけはしたが、ひなたは本当に少し感じた。


 ゆいは、そのままひなたの身体を愛撫しだした。優しく肌に指先を撫で合わせていく。


 ひなたの身体は全身でそれに共鳴する。身体中の血液が微振動しながら循環していく。


「ねえ、わたしだけ。わたしだけだよ」


 ひなたは悶えながら、ゆいに訴えた。


「うん。ひなただけだよ」


 ひなたは、その言葉に安心しながら、それでも少し感じ取っている。


 ゆいの言葉に微かに馴染む嘘の匂いを。


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