朝霧高原の豚肉

 作中の「割烹まかいの」のメイン料理のひとつは「豚の角煮定食」ですが、実はこの豚肉、朝霧高原の畜産界隈では非常にホットな食材なのです。


 富士山の麓にある朝霧高原は、広大な牧草地が広がる畜産が盛んな地域です。牛に豚に鳥に羊、乗馬用の馬も飼育されていたりもします。


 多くの生産者さんが様々な種類・品種の家畜を育てているのですが、その中でも特に熱い開発が繰り広げられているのが豚です。


 飼育方法のこだわりから、品種改良まで、3大ブランド豚を中心に、いろいろな豚肉が生み出され、東京や神奈川の料理店へと卸している牧場さんも数多くあります。今なお研究が盛んな分野で、おいしさのレベルが高まり続けている食材なのです。


 3大ブランド豚とは……えー、いいですか? 笑わないで下さいよ。私が考えたんじゃないですからね。言いましたからね? えー、あらためまして、3大ブランド豚とは、ヨーグルとん・ルイビとん萬幻豚まんげんとんの3品種を指します。


 ヨーグル豚は、ヨーグルト状の飼料で育てられた豚で、豚特有の獣臭さが少なく、脂身が甘くておいしいという特徴があります。お値段は普通の豚よりは高価ですが、手がとどかないというわけでもなく、「ちょっとおいしい豚食べたいな」という時に手に取りやすくなっています。欠点は名前がダジャレだという事くらいです。


 ルイビ豚は、L(ランドレース)Y(ヨークシャー)B(バークシャー)という3原種の豚を配合して生まれた品種です。LYBで、ルイビ豚です。黒豚の血が濃く肉のうまみが強く、肉質は柔らかく、そして、脂の融点が他品種よりも頭一つ低いため、しつこくなく、「軽い」食感を感じるおいしい豚です。お値段はちょっと高めですが、普通に料理するだけで美味しく、豚しゃぶとしていただいても、しつこさを全然感じずに、するすると食べられます。お値段相応においしいのです。欠点は名前がダジャレだと言うことくらいです。なお、生産者の桑原くわはらさん曰く、正式名称は「ルイビぶた」との事ですが、ねえ……?


 ちなみにこの生産者の桑原さん、富士宮どころか、日本の豚業界を引っ張る豚肉界のスーパースターでもあります。ありがたや。


 最後の萬幻豚は、知る人ぞ知る名物精肉店、「さのまん」さんが、おいしい豚肉を作りたいという一心で、生産者を招いてまで育て上げたブランド豚なのです。さの萬のご主人は、控えめに言って肉に取り憑かれた変人で、「おいしいお肉」に対する情熱があふれ出している方です。


 世間的には、ブランド豚生産者というよりも、「ドライエージーング製法」、いわゆる熟成肉の生産を国内で進め、広めた方、という方が有名かもしれません。


 萬幻豚も他の2品種に負けず劣らずとてもおいしい豚です。お値段は少々高めで、それほど流通していません(すぐ売れちゃいます)。とはいえ地元民なら、さの萬さんの店舗に直接行けばいいので、たまーに行ってはおいしいお肉にありついています。


 また、最近ではこの3種の他に、「幸寿豚こうじゅとん」というブランド豚も見かけます。すごくすっきりとしていて、豚しゃぶ用のお肉として推されている豚なのですが、詳しいことはよくわかりません。取り扱ってる店舗からすると、桑原さん絡みの豚なのかなあ、という感じなのですが、私にわかるのは、おいしいという事だけです。


 私の舌も、作中のコータくんと同じく、基本、バカ舌なのです(ちなみに、母の名誉のために言っておきますが、私の母は料理が下手というわけではありませんよ。普通です。普通なはずです)。


 と、このように、朝霧高原まわりでは、豚が熱いのです。お近くに寄った際には、その辺りにも注目して食べ比べていただく、なんてのもいいかもしれません。どの豚も間違いなく美味しいですよ。

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